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ジロリの女(坂口安吾)のあらすじ・登場人物

ジロリの女に仕えた男

  • 恋愛
  • 風刺

坂口安吾 1948年(昭和23年)4月 「文藝春秋」

文字数
51,597字
読了目安
約1時間43分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

人の顔をジロリと見る癖を持つ男の手記という形で語られる、坂口安吾の戦後の長編。1948年4月の「文藝春秋」に前半、「別冊文藝春秋」に後半が載った。語り手の三船は、気の強い芸者や女将、敗戦後に出会う未亡人や才媛など、自分と反りが合わず冷たい視線を向けてくる「ジロリ型」の女ばかりを追いかける。卑屈なほどの奉仕と開き直った饒舌で笑わせながら、色恋の駆け引き、闇商売の時代の空気、男の弱さと情熱を描く、ユーモアの濃い恋愛小説である。

あらすじ

語り手の三船は、三十三の年に女から「人をジロリと見る」と言われて以来、その癖を意識するようになった。実は自分が惹かれるのは、敏腕で意地っぱりの、ジロリと見返してくる型の女ばかりなのだと語る。大学時代、土地の名題の芸者・金龍に出会い、大学生幇間として働いて就職を世話され、やがて金龍の奴隷のように仕えて十年を過ごす。戦争で金龍が旦那と疎開して関係が終わると、三船は闇商売で稼ぐインチキ新聞の社長となり、金で遊ぶため、三人のジロリの女に狙いを定める。亡き従兄の病院を継ぐ未亡人・衣子、その娘の美代子、新聞社に入った陸軍大将の娘で人妻の才媛・夏川ヤス子である。ところが衣子の恋人・大浦博士が、病院の財産を狙って弟と美代子の縁談を持ち出し、三船はその使い走りを引き受けたうえ、ヤス子にまで目をつける博士と張り合うことになる。ところが美代子をめぐる行き違いから衣子に絶縁を言い渡され、美代子の一件でも深く傷つけられる。復讐を誓った三船は、ヤス子の名を使って美代子を呼び出し、誘拐して雪国へ逃げる。やがて東京へ戻り、ヤス子にすべてを詫びて美代子を返すと、ヤス子は怒りも蔑みも見せず、彼を許してほほえんだ。自首を勧められた三船は警察へ向かい、刑事部屋で横になって、はじめて涙を流す。

登場人物

冒頭部(原文より)

 私は人の顔をジロリと見る悪い癖があるのだそうだ。三十三の年にさる女の人にそう言われるまで自分では気づかなかったが、人の心をいっぺんに見抜くような薄気味わるさで、下品だという話だ。それ以来、変に意識するようになり、あゝ、又やったか、そう思う。なるほど、我ながら、変に卑しい感じがする。魂の貧困というようなものだ。男にはメッタにやらぬ。自分では媚びるような気持のときに、逆に変にフテブテしくジロリとやるようなアンバイであるらしい。然し、どんな時にジロリとやるのだか、自分にも明確には分らず、その寸前に、あゝ今、やるな、と思うと果してジロリとやるグアイで、意識すると、後味の悪いものだ。  けれども、三十三の年までは、自分のことには気がつかず、女の人が私に対して、そうするのだけが、ひどく切なく胸にこたえて仕方がなかった。すべての女が私にそうするわけではない。あるきまった型の女の人だけがそうで、キリキリ意地っぱりの敏腕家という姐さん芸者や女将などがそうなのである。

「ジロリの女」坂口安吾(青空文庫)

末尾部(原文より)

 ヤス子のエンゼンたるほゝえみに、大らかな、花のような光がさした。ヤス子の唇があたゝかく私にせまり、ヤス子の腕が私のウナジを静かに然し強くまいた。  それから一時間半ほどの後である。私は警察へたどりついた。玄関前で、ヤス子に別れた。私は結局、あれからも、ヤス子に一言も語らなかった。語る何ものもなかったのだ。別れの挨拶の言葉すらも、なかったのである。私はふりむきもしなかった。  ほどへて私は刑事部屋で、一人の刑事にこう頼んでいた。 「ねむらせて下さい。一時間でいいのです。あゝ、疲れた。ウワゴトを言ったら、覚えておいて下さい。あゝ、何か、オレの喋ることが、分ればいゝ」  そして、ゴロンところがっていると、はじめて、うすい涙があふれてきた。

「ジロリの女」坂口安吾(青空文庫)

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