お時儀(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
思わず会釈したお嬢さん
- 恋愛
- 風刺
- 文字数
- 4,068字
- 読了目安
- 約8分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
「保吉もの」と呼ばれる、芥川龍之介の作中人物・堀川保吉を主人公にした一編。避暑地の駅で顔なじみになった銀鼠の洋服のお嬢さんに、ふと会釈をしてしまった保吉が、自分の心の動きを皮肉まじりに分析し続ける。恋愛小説の型をはずした可笑しみと、薄明るい憂鬱が残る小品。
あらすじ
避暑地に住み、毎日汽車で通う三十歳の保吉は、駅で顔を合わせる銀鼠の洋服のお嬢さんを、売店の猫と同じような顔なじみとして眺めていた。ある三月の午後、午前にしか会わないはずのお嬢さんが、突然降りてきた下り列車から現れ、保吉は思わず反射的にお時儀をしてしまう。お嬢さんも会釈を返した。停車場を出た保吉は、なぜお時儀をしたのかと自分を責め、砂浜でパイプをふかしながら、翌日どう顔を合わせるかを案じる。翌朝、ホームですれ違う瞬間、彼は常識外れのことをしでかさないかと不安になるが、お時儀をしたい衝動を一瞬感じただけで、お嬢さんは何事もなく通り過ぎた。汽車に揺られながら、保吉は薄明るい憂鬱のなかで、お嬢さんのことばかり考え続ける。
登場人物
- 保吉 三十になったばかりの語り手。避暑地から汽車で通う
- お嬢さん 銀鼠の洋服を着た十六、七の少女
冒頭部(原文より)
保吉は三十になったばかりである。その上あらゆる売文業者のように、目まぐるしい生活を営んでいる。だから「明日」は考えても「昨日」は滅多に考えない。しかし往来を歩いていたり、原稿用紙に向っていたり、電車に乗っていたりする間にふと過去の一情景を鮮かに思い浮べることがある。
「お時儀」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
ただ保吉の覚えているのは、いつか彼を襲い出した、薄明るい憂鬱ばかりである。彼はパイプから立ち昇る一すじの煙を見守ったまま、しばらくはこの憂鬱の中にお嬢さんのことばかり考えつづけた。汽車は勿論そう云う間も半面に朝日の光りを浴びた山々の峡を走っている。「Tratata tratata tratata trararach」
「お時儀」芥川龍之介(青空文庫)
原文を読む
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