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葱(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物

芸術と実生活のおかしみ

  • 風刺
  • 恋愛

芥川龍之介 1920年(大正9年)1月 「新小説」

文字数
8,151字
読了目安
約16分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

締切前夜に一気に書き上げるという設定で、語り手の「おれ」が茶々を入れながら綴る軽妙な短編。神田のカッフェの女給お君さんの、芸術的感激に満ちた暮らしと恋の顛末を描く。

あらすじ

語り手の「おれ」は、締切を明日に控え、今夜一気にこの小説を書くと断って始める。神田神保町のカッフェの女給お君さんは、きれいな少女で、近所の女髪結の二階に間借りし、「不如帰」や「藤村詩集」を愛読して、芸術的感激に浸るのが趣味である。同じ店のお松さんとは仲が悪い。お君さんはある冬の夜、詩もヴァイオリンも嗜むという自称芸術家の田中君に誘われ、小川町で待ち合わせる。夢心地で歩くうち、八百屋の「一束四銭」という札が目に入り、お君さんは実生活の記憶に襲われて、葱を二束買う。語り手は小説を書き上げ、お君さんが批評家に退治されて来ることを望みながら筆を置く。

登場人物

冒頭部(原文より)

 おれは締切日を明日に控えた今夜、一気呵成にこの小説を書こうと思う。いや、書こうと思うのではない。書かなければならなくなってしまったのである。では何を書くかと云うと、――それは次の本文を読んで頂くよりほかに仕方はない。

「葱」芥川龍之介(青空文庫)

末尾部(原文より)

 とうとうどうにか書き上げたぞ。もう夜が明けるのも間はあるまい。外では寒そうな鶏の声がしているが、折角これを書き上げても、いやに気のふさぐのはどうしたものだ。お君さんはその晩何事もなく、またあの女髪結の二階へ帰って来たが、カッフェの女給仕をやめない限り、その後も田中君と二人で遊びに出る事がないとは云えまい。その時の事を考えると、――いや、その時はまたその時の事だ。おれが今いくら心配した所で、どうにもなる訳のものではない。まあこのままでペンを擱こう。左様なら。お君さん。では今夜もあの晩のように、ここからいそいそ出て行って、勇ましく――批評家に退治されて来給え。

「葱」芥川龍之介(青空文庫)

名文

おれは締切日を明日に控えた今夜、一気呵成にこの小説を書こうと思う。いや、書こうと思うのではない。書かなければならなくなってしまったのである。

冒頭の一節。締切に追われる作者自身が顔を出す語り口で、カッフェの女給仕お君さんの物語へ読者を引き込む。

薔薇と指環と夜鶯と三越の旗とは、刹那に眼底を払って消えてしまった。

恋人とのデートの途中、八百屋の「一束四銭」の葱の札を見たお君さんの胸の内。恋と芸術の夢から実生活へ引き戻される瞬間を鮮やかに描く。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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