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麻を刈る(泉鏡花)のあらすじ・登場人物

人力車で辿る若き日の旅

泉鏡花 1926年(昭和元年)9月 「時事新報」

文字数
13,731字
読了目安
約27分
表記
旧字旧仮名
種別
随筆

この作品について

1926年(大正15年)9月から10月にかけて「時事新報」に連載された随筆。人力車の流行を話の糸口に、金沢から東京へ出る道中の苦労、師・尾崎紅葉の玄関で暮らした書生時代の思い出へと語りが連なる。結びで、題は「麻を刈る」としたが紡ぎも織りもしない、浴衣がけの縁台話だと断る、軽妙な語り口の自伝的随筆。

あらすじ

明治初年の人力車の流行と、情事にもつきものだった相乗りの話から始まる。筆者は、自分が車に乗るのは上手だが落ちることも多かったと、数々の失敗談を披露する。北陸線が通じる前、金沢から東京へは敦賀・伏木・直江津のいずれの道も難儀であった。若い頃に伏木から直江津へ汽船で渡ったこと、穴のあいた足袋にまつわる恥、尾崎紅葉に糠漬けの河豚を土産にした男の話などが、思い出の中に差し挟まれる。父の危篤の電報で故郷へ駆け戻ったときには、武生から金沢まで二十七里を一日で引き通した車夫に出会い、不忍池の競歩の逸話にまで話が及ぶ。脚気をわずらった夏の帰省、雪の峠で『雨月物語』の「青頭巾」を朗読して歩いた話もある。結びは、蒸し暑い晩の縁台で虫の声と銀河を眺めながら、「これは浴衣がけの縁台話」と断って終わる。

冒頭部(原文より)

 明治十二三年頃の出版だと思ふ――澤村田之助曙双紙と云ふ合卷ものの、淡彩の口繪に、黒縮緬の羽織を撫肩に引つ掛けて、出の衣裝の褄を取つた、座敷がへりらしい、微醉の婀娜なのが、俥の傍に彳ずんで、春たけなはに、夕景色。瓦斯燈がほんのり點れて、あしらつた一本の青柳が、裾を曳いて、姿を競つて居て、唄が題してあつたのを覺えて居る。曰く、(金子も男も何にも入らぬ微醉機嫌の人力車)――少々間違つて居るかも知れないが、間違つて居れば、其の藝妓の心掛で、私の知つた事ではない。何しろ然うした意氣が唄つてあつた。或は俥のはやりはじめの頃かも知れない。微醉を春の風にそよ/\吹かせて、身體がスツと柳の枝で宙に靡く心持は、餘程嬉しかつたものと見える。

「麻を刈る」泉鏡花(青空文庫)

末尾部(原文より)

 蒸暑いのが續くと、蟋蟀の聲が待遠い。……此邊では、毎年、春秋社の眞向うの石垣が一番早い。震災前までは、大がい土用の三日四日めの宵から鳴きはじめたのが、年々、やゝおくれる。……此の秋も遲かつた。 それ、自動車が來たぜ、と婦まじりで、道幅が狹い、しば/\縁臺を立つのだが、俥は珍らしいほどである。これから、相乘――と云ふ處を。……おゝ、銀河が見える――初夜すぎた。

「麻を刈る」泉鏡花(青空文庫)

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