化物の進化(寺田寅彦)のあらすじ・登場人物
化け物は文化の傑作である
- 文字数
- 10,204字
- 読了目安
- 約20分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
物理学者・寺田寅彦の代表的な科学随筆。1929年(昭和4年)、雑誌「改造」に発表された。寺田は「化け物」を、人間と自然の接触から生まれた文化の傑作と位置づける。昔の人が自然界の不可解な現象を化け物の仕業として説明したのは、じつは一種の作業仮説であり、そこには素朴ながら科学に通じる精神が働いていた、と説く。科学が進歩して古い化け物は姿を消したが、化け物を生み出す心そのものは形を変えて生き続けている——宗教・科学・芸術のはざまに立つ「化け物」を手がかりに、人間の想像力と自然認識のあり方を軽妙かつ鋭く論じた一篇である。
あらすじ
人間文化の生んださまざまな創作物のなかでも、「化け物」は最もすぐれた傑作である——寺田寅彦はそう説き起こす。化け物は人間と自然の接触から生まれた正嫡子であり、その住む世界は宗教であり、科学であり、また芸術でもある。いかなる宗教もその教典に化け物を活躍させており、化け物なしには宗教は成立しない。昔の人は雷や地震など自然界の不可解な現象を化け物の仕業として説明したが、それは現象を統一的に理解しようとする一種の「作業仮説」であって、そこにはすでに科学的精神の萌芽が宿っていた。やがて科学が発達し、化け物たちの領分は次々と自然法則によって説明され、古い化け物は迷信として退けられてゆく。しかし寺田は、化け物を生み出す人間の心のはたらきそのものは決して滅びず、時代に応じて姿を変えながら永遠に同一の心的内容を保ち続けると考える。むしろ、科学が万能ではないと知る謙虚な精神においてこそ、新しい「化け物」の存在は許されるのだ——と、寺田は科学者らしい柔軟な想像力で、自然と人間の関係をユーモラスに論じてみせる。
冒頭部(原文より)
人間文化の進歩の道程において発明され創作されたいろいろの作品の中でも「化け物」などは最もすぐれた傑作と言わなければなるまい。 化け物もやはり人間と自然の接触から生まれた正嫡子であって、その出入する世界は一面には宗教の世界であり、また一面には科学の世界である。 同時にまた芸術の世界ででもある。
「化物の進化」寺田寅彦(青空文庫)
末尾部(原文より)
この尊敬すべき大家の謙遜な言葉は今の科学で何事でもわかるはずだと考えるような迷信者に対する箴言であると同時に、また私のいわゆる「化け物」の存在を許す認容の言葉であるかとも思う。 もしそうだとすると長い間封じ込められていた化け物どももこれから公然と大手をふって歩ける事になるのであるが、これもしかし私の疑心暗鬼的の解釈かもしれない。 識者の啓蒙を待つばかりである。
「化物の進化」寺田寅彦(青空文庫)
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