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茶わんの湯(寺田寅彦)のあらすじ・登場人物

一杯の湯に空を見る

寺田寅彦 1922年(大正11年)5月 「赤い鳥」

文字数
3,964字
読了目安
約8分
表記
新字新仮名
種別
随筆

この作品について

湯を張った茶わん一つを見つめることから、雷雨、竜巻、かげろう、海陸風、季節風にまで話が広がっていく——寺田寅彦が児童雑誌「赤い鳥」に寄せた科学随筆の代表作。湯気の粒、渦、茶わんの底に映るゆらめく模様。身近な一杯の湯のなかに大気現象の縮図を読みとってみせる語り口は、のちに理科教材の定番となった。「茶碗の湯」の名で広く知られる一篇。

あらすじ

ここに茶わんが一つあり、中には熱い湯がいっぱい入っている。ただそれだけのことのようだが、よく気をつけて見ていると、いろいろの微細なことが目につき、さまざまの疑問が起こってくる。まず湯の面から立つ白い湯げ。これは水蒸気が冷えて小さな滴になったもので、雲や霧と同じものである。日光にすかせば粒が見え、時には虹のような色もつく。蒸気が滴になるには必ず心になる細かい塵が要る、という学者の研究にも話は及ぶ。湯げの立ちのぼり方を見れば湯の熱さのおおよそが知れ、その上りぎわにはいくつもの渦ができる。同じ渦が春先の庭先では竜巻のような柱になり、さらに大仕掛けなものが雷雨をもたらす空中の大渦である。……次に湯そのものを見る。日向に持ち出して底をのぞくと、光った線と薄暗い線が不規則な模様となってゆるやかに動いている。これは冷えて重くなった水が下り、熱い水がのぼるという循環が、場所ごとにむらを作るためで、そのむらの境で光が曲がるのだ。壁や屋根の上にちらちらする「かげろう」も同じ理屈である。この方法を工夫すれば、飛んでゆく銃弾が空気を押しつけるさまや、プロペラが空気を切る模様まで写真に撮ることができる。表面から冷える湯のむらは、湖水や海が冬に冷えるときの流れにつながり、地面で暖められた空気のむらは飛行家を脅かす突風となり、それが大仕掛けになれば海陸風、山谷風、そして季節風となる。茶わんの湯の話はまだいくらでもあるが、今度はこれくらいにしておきましょう——そう寅彦は筆をおく。

冒頭部(原文より)

 ここに茶わんが一つあります。中には熱い湯がいっぱいはいっております。ただそれだけではなんのおもしろみもなく不思議もないようですが、よく気をつけて見ていると、だんだんにいろいろの微細なことが目につき、さまざまの疑問が起こって来るはずです。ただ一ぱいのこの湯でも、自然の現象を観察し研究することの好きな人には、なかなかおもしろい見物です。

「茶わんの湯」寺田寅彦(青空文庫)

末尾部(原文より)

 これと同じようなことが、山の頂きと谷との間にあって山谷風と名づけられています。これがもういっそう大仕掛けになって、たとえばアジア大陸と太平洋との間に起こるとそれがいわゆる季節風で、われわれが冬期に受ける北西の風と、夏期の南がかった風になるのです。  茶わんの湯のお話は、すればまだいくらでもありますが、今度はこれくらいにしておきましょう。

「茶わんの湯」寺田寅彦(青空文庫)

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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