厭世詩家と女性(北村透谷)のあらすじ・登場人物
「恋愛は人世の秘鑰なり」
- 文字数
- 6,341字
- 読了目安
- 約13分
- 表記
- 新字旧仮名
この作品について
「恋愛は人世の秘鑰なり」――この一句で名高い、北村透谷の恋愛評論。人生の秘奥をきわめる詩人がなぜ恋愛に苦しみ、その妻を不幸にするのかを、ゲーテやバイロンら西欧詩人の生涯を引きながら論じる。想世界と実世界の相克のなかに恋愛の意味を見いだし、明治の青年に恋愛至上の理想を吹き込んだ、日本浪漫主義の記念碑的な一文である。
あらすじ
「恋愛は人世の秘鑰なり」――透谷はこの高らかな宣言から筆を起こす。恋愛こそ人生の扉を開く鍵であり、これを抜き去れば人生には何の味わいもない。ところが、もっとも深く人生の秘奥をきわめるはずの詩人こそが、もっとも多く恋愛に苦しみ、罪を作る。ゲーテ、バイロン、シェリー、ミルトン、カーライル――西欧の大詩人たちの多くが、妻との不和や破局に見舞われたのはなぜか。透谷は、人間は生まれながらに理想を抱く「想世界」に生き、やがて厳しい「実世界」と衝突すると説く。その戦いに敗れた「想世界」の敗将が最後に立てこもる牙城こそ恋愛であり、それは単なる異性への思慕ではなく、理想を守ろうとする魂の砦なのだと。しかし理想の化身として恋愛を求める厭世詩家にとって、生身の女性はやがて重荷となり、熱狂的な愛は静かな愛へと冷めてゆく。そのとき女性は、優美高妙の代表であると同時に、俗界の代弁者として詩人に疎まれ、涙のうちに一生を終える――。透谷は詩人と女性の宿命的な悲劇を見つめつつ、恋愛を人生最高の価値へと押し上げた。恋愛を精神の問題として正面から論じた本作は、明治の青年たちに深い衝撃を与え、近代日本の恋愛観を切り開いた画期的な評論である。
冒頭部(原文より)
恋愛は人世の秘鑰なり、恋愛ありて後人世あり、恋愛を抽き去りたらむには人生何の色味かあらむ、然るに尤も多く人世を観じ、尤も多く人世の秘奥を究むるといふ詩人なる怪物の尤も多く恋愛に罪業を作るは、抑も如何なる理ぞ。古往今来詩家の恋愛に失する者、挙げて数ふ可からず、遂に女性をして嫁して詩家の妻となるを戒しむるに至らしめたり、詩家豈無情の動物ならむ、否、其濃情なる事、常人に幾倍する事著るし、然るに綢繆終りを全うする者尠きは何故ぞ。ギヨオテの鬼才を以て、後人をして彼の頭は黄金、彼の心は是れ鉛なりと言はしめしも、其恋愛に対する節操全からざりければなり。
「厭世詩家と女性」北村透谷(青空文庫)
末尾部(原文より)
嗚呼不幸なるは女性かな、厭世詩家の前に優美高妙を代表すると同時に、醜穢なる俗界の通弁となりて其嘲罵する所となり、其冷遇する所となり、終生涙を飲んで、寝ねての夢、覚めての夢に、郎を思ひ郎を恨んで、遂に其愁殺するところとなるぞうたてけれ、うたてけれ。「恋人の破綻して相別れたるは、双方に永久の冬夜を賦与したるが如し」とバイロンは自白せり。
「厭世詩家と女性」北村透谷(青空文庫)
名文
恋愛は人世の秘鑰なり、恋愛ありて後人世あり、恋愛を抽き去りたらむには人生何の色味かあらむ
評論の冒頭に置かれ、明治の青年たちに衝撃を与えた一文。恋愛を人生の秘密を解く鍵とたたえ、近代的な恋愛観を高らかに宣言した。
原文を読む
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