えぞおばけ列伝(知里真志保)のあらすじ・登場人物
アイヌのおばけ大集合
- 怪奇
- 風刺
- 文字数
- 32,263字
- 読了目安
- 約1時間5分
- 表記
- 新字新仮名
- 舞台
- 北海道
この作品について
アイヌ語学者の知里真志保が、北海道と樺太のアイヌに伝わるおばけや魔物の話を集め、訳と解説を添えて紹介したもの。1961年(昭和36年)4月、著者が亡くなる2か月前に、ぷやら新書刊行会から刊行された。屁をひるおばけ、食べ物をねだるおばけ、空き家に住みつく毛むくじゃらの老人など二十の項目に、恋と性にまつわる「アイヌ艶笑談」を合わせて収め、神謡の一節やまじないの歌をアイヌ語と訳で示す。巻末の註解では、魔物の名の語源や信仰の背景をアイヌ語の分析から解き明かしており、伝承のおかしみと学者としての知見が一冊に同居する。のちに岩波文庫『アイヌ民譚集』に収められた。
あらすじ
樺太アイヌの「屁っぴりおばけ」は、炉の中でポアと音を立てて家じゅうを臭くするが、こちらも負けずに屁をひれば退散する。山で弁当を広げると背後から手を出す「腹ぺこおばけ」には、焼けた砥石をのせてやればよい。続いて、入江を守る神が自ら語る神謡の形で、英雄ヤイレスポの妹を狙うシルクル魔を追い払う話や、村人をさらった飢饉魔をトリカブトの毒で退治する話が紹介される。山中で名を呼ぶ魔の声には三度目まで返事をしてはならないという教え、禿頭の話を嫌う山の人キムナイヌ、空き家に住みつき人の真似をして犬を斬り殺す「空屋の番人」、たいまつをかざして人をつけ回し、正体はワタリガラスだったおばけ、一つ目の大入道の正体だった大カワウソ、山小屋の娘たちをおばけから守ったフクロウの話が続く。北海道の淫魔パウチとその憑きものを落とす荒療治、男の舌を抜くコタン版ローレライの魔女、木原の姥の話のあとには、将軍の講演をめぐる笑い話やラッコ狩りの奇談などの「アイヌ艶笑談」が並び、最後に語源と風習を説く詳しい註解が付く。
冒頭部(原文より)
屋内に独りいると突然炉の中でポアと音を発する.するとあちらでもポア,こちらでもポアとさいげんがない.臭くてかなわない.そういう際には,こっちでも負けずにポアと放してやれば,恐れ入って退散する.あいにくと臭いのが間に合わぬときは,ポアと口真似するだけでも退散するというから,このおばけ案外に気はやさしいのかもしれぬ.名は「オッケオヤシ(1)」(屁っぴりおばけ),または「オッケルイペ(2)」(屁っこき野郎)という.
「えぞおばけ列伝」知里真志保(青空文庫)
末尾部(原文より)
「いや,わしが悪かった.肉が煮える前に一同あわてて寝たのには,わけがあるのだ.ラッコの神さまはたいそうあれがおすきなので,それを煮ていると,とても我慢ができなくなる.それで,ひとまずあれを堪能してから,会食するのがこの村のしきたりになってるのだ.あんたは始めてのことで,さぞびっくりなすったことじゃろう.悪く思わないでくれ」 と詫びたので,私の心も解けて,それから皆で賑やかに会食をすませた. 所変れば風習も変るというが,まったくそうだ.このときの少女と私は夫婦になり,今は孫も大勢出来て,何不自由なく天寿を完うして,今は神の国へ行くのだ,――とウラシベツの酋長が物語った.
「えぞおばけ列伝」知里真志保(青空文庫)
原文を読む
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