指(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物
切断された手首をめぐる恐怖
- 怪奇
- 文字数
- 1,248字
- 読了目安
- 約2分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
江戸川乱歩が1960年(昭和35年)、「ヒッチコックマガジン」に発表した掌編。何者かに右手首を切断されたピアニストと、その事実を告げられずにいる主治医「私」を描く。乱歩最晩年の、切れ味鋭い恐怖の小品である。
あらすじ
麻酔から醒めた患者は、右手に厚く巻かれた繃帯の下で、手首が切断されていることを知らない。彼は名のあるピアニストで、闇夜に何者か——おそらくは名声を妬む同業者——に、鋭い刃物で右手首を斬り落とされたのだ。主治医である「私」は、親友でもあるこの患者を落胆させるにしのびず、しばらくのあいだ、その事実を伏せておこうとする。ところが患者は、新しく作曲した曲を毎日弾かねば気がすまぬと言い、毛布の上で指を動かしはじめる。「私」は咄嗟に、患者の上膊の尺骨神経を圧迫して、失われた指があるかのような幻の感覚を脳に伝え、「よく動くよ」と架空のピアノを弾かせる。その痛ましい光景から逃れて手術室の前を通りかかった「私」は、青ざめた看護婦の視線の先——棚に置かれたガラス瓶に目をやる。アルコール漬けにされた患者の手首、その五本の指が、白い蟹の脚のように、ピアノのキイを叩く調子で、たよりなげにしきりと動いていた——。乱歩晩年の、ぞっとする余韻を残す掌編である。
冒頭部(原文より)
患者は手術の麻酔から醒めて私の顔を見た。 右手に厚ぼったく繃帯が巻いてあったが、手首を切断されていることは、少しも知らない。 彼は名のあるピアニストだから、右手首がなくなったことは致命傷であった。犯人は彼の名声をねたむ同業者かもしれない。
「指」江戸川乱歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
私は思わず手術室にはいって、その棚を見た。そこには彼の手首をアルコール漬けにした大きなガラス瓶が置いてあった。 一目それを見ると、私は身動きができなくなった。 瓶のアルコールの中で、彼の手首が、いや、彼の五本の指が、白い蟹の脚のように動いていた。 ピアノのキイを叩く調子で、しかし、実際の動きよりもずっと小さく、幼児のように、たよりなげに、しきりと動いていた。
「指」江戸川乱歩(青空文庫)
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