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糞尿譚(火野葦平)のあらすじ・登場人物

糞尿の雨に立つ、黄金の鬼

  • 心理
  • 社会

火野葦平 1937年(昭和12年)10月 「文学会議」

文字数
51,967字
読了目安
約1時間44分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 福岡県

この作品について

九州の小都市で屎尿汲取り業を営む男の悪戦苦闘を描いた中篇で、第6回芥川賞受賞作(1938年)。同人誌「文学会議」に発表されたとき、作者は中国戦線に応召しており、授賞式は杭州で、陸軍報道部員だった小林秀雄が賞を手渡すという異例のものとなった。市役所の役人、政党がらみの妨害、同業者の裏切り、金に追われる日々——汚辱にまみれた仕事と人間の悲喜劇を、笑いと憤りのないまぜになった筆で書ききる。

あらすじ

小森彦太郎は、九州の小都市で「衛生舎」の看板を掲げ、屎尿の汲取りを請け負っている。トラックは老朽し、桶は腐って洩れ、集金に回れば値切られ、時間が悪いと叱られる。それでも恩人である赤瀬春吉の助けと、気さくな阿部の後ろ盾を得て、市の指定業者としての足場を固めようと歎願書を書き、市会議員や有力者に配って歩いた。ところが市役所の衛生課長・杉山も、政党の圧力の前では動けない。汲取人組合の結成をめぐって同業の友田が裏から手を回し、買収された天野の証言で話はねじ曲がる。トラックの修繕費、従業員への給金、酒代——追いつめられた彦太郎の歯車は少しずつ狂ってゆく。信じた相手に裏切られ、最後の頼みの綱も切れたとき、彼のなかで何かが弾けた。積み上げた桶をひっくり返し、町じゅうに糞尿をまき散らしながら、寿限無寿限無と早口に唱えて仁王立ちになる彦太郎の姿は、夕陽を浴びて一匹の黄金の鬼のように燦然と輝いていた。

登場人物

冒頭部(原文より)

どこかでは既に雨が降っているのか、白く光って見あげるようにむくむくともりあがった入道雲の方向で、かすかな遠雷のとどろきがして居る。斜面を下りながら、彦太郎は、麦藁帽子の縁に手をかけて空を見あげ、一雨来るかも知れんと思い、灼けるように陽炎をあげている周囲を見わたすと、心なしか、さっと、一陣の冷たい風が来て西瓜畑の葉を鳴らした。赭土の中にころがった大小さまざまの西瓜は埃にまみれて禿げたような青い色を晒している。下りながら、両手で輪をつくり、口にあてて、おうい、と叫ぶと、小さく下に見える池の中央に入って、真裸で両手を水中につっこんでいた男が、顔をあげた。彦太郎だと知ると、下の方で背を伸ばし、伸びをして腰を叩き、こちらに笑いかけたのが遠目にもわかった。

「糞尿譚」火野葦平(青空文庫)

末尾部(原文より)

誰でも来い、もう負けはしないぞ、寄ってたかって俺を馬鹿扱いにした奴ども、もう俺は弱虫ではないぞ、馬鹿ではないぞ、ああ、俺は馬鹿であるものか、寿限無寿限無五光摺りきれず海砂利水魚水魚末雲来末風来末食来寝るところに住むところや油小路藪小路ぱいぽぱいぽぱいぽのしゅうりん丸しゅうりん丸しゅうりん丸のぐうりんだいのぽんぽこぴいぽんぽこなの長久命の長助、寿限無寿限無五光摺りきれず海砂利水魚水魚末雲来末風来末食来寝るところに住むところや油小路藪小路ぱいぽぱいぽぱいぽのしゅうりん丸しゅうりん丸しゅうりん丸のぐうりんだいのぽんぽこぴいぽんぽこなの長久命の長助、さあ、誰でも来い、負けるもんか、と、憤怒の形相ものすごく、彦太郎がさんさんと降り来る糞尿の中にすっくと立ちはだかり、昴然と絶叫するさまは、ここに彦太郎は恰も一匹の黄金の鬼と化したごとくであった。折から、佐原山の松林の蔭に没しはじめた夕陽が、赤い光をま横からさしかけ、つっ立っている彦太郎の姿は、燦然と光り輝いた。

「糞尿譚」火野葦平(青空文庫)

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原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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