ひかげの花(永井荷風)のあらすじ・登場人物
場末に身を寄せ合う男と女
- 心理
- 社会
- 文字数
- 47,751字
- 読了目安
- 約1時間36分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
永井荷風の後期を代表する花柳小説。1934年(昭和9年)8月、「中央公論」に発表された。「つゆのあとさき」「濹東綺譚」へと連なる、東京下町の日の当たらぬ場所(=ひかげ)に生きる女とその情夫を描いた一編である。かつて芸者や酌婦であった三十女お千代と、彼女に養われて博打に明け暮れる情夫の重吉。世間の表通りからは外れた場末の貸二階で身を寄せ合って暮らす男女の倦怠と情愛を、荷風は突き放しつつもどこか憐れみのこもった眼差しで写し取る。風俗描写の露骨さから発表時には多くの伏字・削除を余儀なくされた、荷風円熟期の一編でもある。
あらすじ
三十をいくつか越えたお千代は、場末の貸二階でその日暮らしの生活を送っている。夜具にくるまって新聞を眺めているのは、定職を持たず彼女に養われて博打に精を出す情夫の重吉。かつて芸者や酌婦として苦労を重ねてきたお千代は、今もひそかに身を売りながら、この頼りない男とだらだらと日を過ごしている。世間の表通りからは外れた「ひかげ」の暮らしのなかで、二人は倦みつつも互いを離れずにいる。やがて物語の後半、お千代には昔わけあって別れた娘があり、その娘もまた母と同じ日陰の世界に身を沈めていることが明らかになる。人の縁の糸をたどってお千代は娘とめぐり会い――。私娼とそのひもという、社会の片隅に生きる者たちの生態を、荷風は道徳の物差しを外した醒めた、それでいてどこか温かな筆で描き出す。物語は、母のもとへ身を寄せることになった娘からの一通の手紙で、静かに閉じられる。
登場人物
- お千代 場末の貸二階で暮らす三十女。かつて芸者・酌婦を勤め、今も身を売りながら情夫を養う本作の主人公
- 重吉 お千代に養われ、博打に明け暮れる情夫
- たみこ わけあってお千代と別れ、母と同じ日陰の世界に生きる娘
冒頭部(原文より)
二人の借りている二階の硝子窓の外はこの家の物干場になっている。その日もやがて正午ちかくであろう。どこからともなく鰯を焼く匂がして物干の上にはさっきから同じ二階の表座敷を借りている女が寐衣の裾をかかげて頻に物を干している影が磨硝子の面に動いている。
「ひかげの花」永井荷風(青空文庫)
末尾部(原文より)
わたくしは暫く母のところに同居することにいたしました。また変ったことがありましたら、お知らせをいたします。ではさようなら。
「ひかげの花」永井荷風(青空文庫)
原文を読む
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