癩(島木健作)のあらすじ・登場人物
獄中の病舎で見た不屈の同志
- 社会
- 心理
- 文字数
- 37,381字
- 読了目安
- 約1時間15分
- 表記
- 旧字旧仮名
- 種別
- 小説
この作品について
島木健作が1934年(昭和9年)、「文学評論」に発表した短編小説。農民運動に加わって検挙され、獄中で転向を表明して出獄した作者の、文壇への出発となった作品である。思想犯として服役中に結核を病んだ青年・太田が、刑務所の病舎で、かつての同志が癩(ハンセン病)に冒されて隔離されているのに出会う。単調な獄中の日々の音や光、病の進行が克明に描かれ、信念を貫く者と貫けない者との対比が静かに浮かび上がる。題名と作中の語は発表当時の病名表記による。
あらすじ
瀬戸内海に面した小都市の刑務所から、大都市に近い丘の上の新しい刑務所へ移された思想犯の太田は、西向きの独房で服役後はじめての真夏を迎える。単調な日々のなかで太田は、遠くから聞こえる音に耳を澄ませることを覚えるが、ある日激しく喀血し、結核と診断されて病舎へ移される。そこで二つおいた隣の雑居房に収容されていたのは、癩を病んだ囚人たちだった。そのなかに太田は、かつて同じ運動に加わり、自分よりも先に捕らえられていた同志・岡田良造の姿を見出す。岡田の顔はすっかり病に変わり果てていたが、彼は少しも節を曲げず、獄中でもかつての思想をそのまま生き抜いていた。病の重さに心弱り、自分の立場に迷いを抱く太田は、肉体が崩れてもなお揺るがぬ岡田を畏敬し羨むが、自分はその境地には至れないことも悟る。刑務所の幹部は二人を引き離そうとするが、その前に太田の病状は急に重くなる。刑の執行停止が決まり、担架で運び出される太田は、病室の窓の鉄格子につかまって自分を見送る岡田の顔を見たように思いながら、深い昏睡に落ちていく。
登場人物
- 太田 思想犯として服役する青年。獄中で結核を病む
- 岡田良造 太田のかつての同志。癩を病みながらも節を曲げない
冒頭部(原文より)
新しく連れて來られたこの町の丘の上の刑務所に、太田は服役後はじめての眞夏を迎へたのであつた。
「癩」島木健作(青空文庫)
末尾部(原文より)
太田が用意された擔架の上に移されると、二人の看病夫はそれを擔いで病舍を出て行つた。肥つた醫務主任がうつむきかげんにその後からついて行く。向ふの病舍の庭がつきるあたりの門の側には、太田に執行停止の命令を傳へるためであらう、典獄補がこつちを向いて待つてゐるのが見える。――そして擔架でかつがれて行く太田が、心持首をあげて自分の今までゐた方角をぢつと見やつた時に、彼方の病室の窓の鐵格子につかまつて、半ば伸び上りかげんに自分を見送つてゐる岡田良造の、今はもう肉のたるんだ下ぶくれの顏を見たやうに思つたのであるが、やがて彼の意識は次第に痺れて行き、そのまゝ深い昏睡のなかに落ちこんで了つたのである……。
「癩」島木健作(青空文庫)
原文を読む
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