生活の探求(島木健作)のあらすじ・登場人物
大学を捨てて土に生きる青年
- 社会
- 青春
- 文字数
- 162,479字
- 読了目安
- 約5時間25分
- 表記
- 旧字旧仮名
- 種別
- 小説
この作品について
島木健作が1937年(昭和12年)、河出書房の「書きおろし長篇小説叢書」の一冊として発表した長編小説(本書はその前篇)。東京の大学に進みながら病を得て郷里の農村に帰った青年・杉野駿介が、学業を続けることに疑いを抱き、父とともに土を耕す生活に入ろうとする姿を描く。葉煙草の栽培、米の籾摺り、村の祭りや講など、農村の暮らしと仕事が具体的に書き込まれ、知識人の生き方を問う作品として当時の青年読者に広く迎えられた。
あらすじ
春から雨の少ない年、大学に入ったばかりで肺炎を患った杉野駿介は、養生のため郷里の農村に帰ったまま、いつまでも東京へ戻ろうとしない。老いた父の駒平が煙草畑へ水を運ぶ姿を見ながら、駿介は村のあちこちを歩き、これまで落ち着いて見たことのなかった農村の生活を見つめ直す。都会で身につけた知識が、人々の暮らしに何の役にも立たないのではないかという思いが、彼の心を占めていく。かつて社会運動に加わって挫折した先輩の志村は、すさんだ皮肉な口ぶりで駿介の変わりようを嘲り、村の有力者の上原は、思ったことを実際にやってみようとする駿介の態度を認めつつも、その方向を問う。駿介は大学をやめ、父とともに鍬を握って働く決心をする。田植えや煙草の手入れ、村の祭りや宗教行事、近所づきあいに加わるうちに、彼は農民たちの苦労と知恵を身をもって知り、機械摺りの籾の量り込みの問題など、村の不合理にも目を向けるようになる。やがて駿介は、煙草の作付け面積を増やしてもらうよう役所に掛け合う役を買って出る。交渉は思いがけず実を結び、部落のすべての家の増段が認められる。駿介は自分の分の一部を部落の人々に譲ると申し出て、ささやかな成功から新しい自信と勇気を得る。
登場人物
- 杉野駿介 東京の大学生。病気療養で帰郷し、大学をやめて農業に生きようとする
- 杉野駒平 駿介の父。律儀な老農で、急な坂の煙草畑を黙々と耕す
- 志村 駿介の村の先輩。社会運動に挫折し、皮肉な冷笑を浮かべて暮らす
- 上原 村の有力者。息子の哲造は身を持ち崩しており、駿介の生き方に関心を寄せる
- 石黒 部落の農民。煙草の増段をめぐって駿介とともに動く
冒頭部(原文より)
今年は春から雨の降ることが少なかつた。 山林を切り開いて作つた煙草畑まで、一町餘りも下の田の中の井戸から、四斗入りのトタンの水槽を背負つて、傾斜七十度の細い畦道を、日に幾度となく往き還りする老父の駒平の姿はいたいたしい。
「生活の探求」島木健作(青空文庫)
末尾部(原文より)
なんといふことなく、駿介はその時ふと、もう久しく會つてゐない志村と上原の二人を思ひ出した。 爲されたことは實にささやかな一つの事なのであつた。 しかし、それは駿介に新しい自信と勇氣とを與へたのである。 (前篇終)
「生活の探求」島木健作(青空文庫)
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