蛮人(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
灰にまみれた労働者たちの沈黙
- 心理
- 社会
- 文字数
- 6,726字
- 読了目安
- 約13分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
山本周五郎が1936年(昭和11年)、「アサヒグラフ」に発表した異色の短編。貝殻を焼いて石灰をつくる工場で、全身灰にまみれ、坊主頭で黙々と働く労働者たち——まるで「蛮人」のようなその暮らしのなかで起きた、暴力と沈黙の出来事を、荒涼とした筆致で描く。山本の作品には珍しい、異様な迫力をたたえた一編である。
あらすじ
貝殻を焼いて石灰をつくる工場が、荒地のはずれにあった。屋根から下まで白い灰にまみれ、絶えず濃霧のような灰煙を吐き出すその建物は、まるで吹雪のなかに取り残された廃屋のようだ。工場の中では、七人の労働者が働いている。彼らは裸で、頭を囚人のように剃りつけ、日焼けした赤銅色の体はすっかり灰まみれ、眉のなかまで灰が忍びこんで、マスクのような無表情な顔をしている。四人の男と、そのうちの三人の妻たち——女もまた裸で、髪を刈り込み、男と見分けがつかない。口をきけば容赦なく灰屑がとびこんでくるから、彼らは石のように黙々と、絶対の沈黙のなかで働きつづける。まるで「蛮人」のようなその生活のなかで、ある暴力の出来事が起きる。労働者の一人・茂吉が、女に危害を加えようとして、ショベルで頭を破られたのだ。なぜ女に危害を加えたのか、彼はついに語らなかった。村の人々が根掘り葉掘り原因を知ろうとしても、工場の者たちは灰まみれの坊主頭を横に振るばかり。さまざまな憶説だけが、まことしやかに伝わっていく。彼らはそんな噂にはかかわろうともせず、やはり黙々と灰煙のなかを動きまわっている——。異様な迫力をたたえた、山本の異色作である。
登場人物
- 茂吉 女に危害を加え、頭を破られる労働者
- 灰まみれの労働者たち 石灰工場で黙々と働く者たち
冒頭部(原文より)
貝殻を焼いて石灰をつくる工場が中堀から荒地へ出はずれたところにあった。……屋根から下どこもかしこも白い番瀝青で塗りつぶしたように灰まみれで、高いところにある小窓やそこここの隙間からは、絶えず濃霧のような灰煙が溢れ出で、それが建物を中心にたち舞っているところは、まるで凄じい吹雪のなかに取残された廃屋のように見える。
「蛮人」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
村の人たちはこの事件の原因を知ろうとしてずいぶん根気よく根掘り葉掘りしたが、工場の者たちはいつも黙って、灰まみれの坊主頭を横に振るばかりだった。 彼らはしかしそんな噂にはかかわろうともせず、やはり黙々として灰煙のなかに動き廻っている――乳色の濃い死灰は一日じゅう建物から溢れだし、霧粒のように草や地面を埋めながら、ちりちりと空中に舞っている。
「蛮人」山本周五郎(青空文庫)
原文を読む
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