風姿花伝(世阿弥)のあらすじ・登場人物
秘すれば花なり
- 古典
- 文字数
- 24,931字
- 読了目安
- 約50分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
室町時代の初め、能役者の世阿弥が、亡き父観阿弥から受けた教えと自らの工夫を、子孫のためにまとめた能の伝書。応永7年(1400年)に第三篇までが書かれ、のちに書き足されて、日本最古級の本格的な芸術論とされる。年齢に応じた稽古のあり方、女・老人・物狂・鬼などの役の演じ方、観客や勝負への心得、申楽の起源などを説き、その中心に「花」の理念を置く。花とは、見る人の心に珍しい、おもしろいという感動を呼びおこすものであり、若さの一時の花と、工夫を積んで得る「まことの花」とを分けて考える。「初心忘るべからず」「秘すれば花」といった、今も広く引かれる言葉の源でもある。家の大事として子孫にだけ伝えるべき書とされ、長く一般には知られず、明治42年(1909年)に吉田東伍が校註して公刊し、広く知られるようになった。本書は、その校註本「世阿彌十六部集」(能楽会、1909年)による原文で、国立国会図書館が公開する底本の画像とOCRテキストを照らし合わせて校正し、収録した。
あらすじ
書名は、巻末の第五篇に「心より心に伝る花なれば、風姿花伝と名付く」とあるように、言葉に尽くせない芸の花を、心から心へ伝えるという意味でつけられた。冒頭の短い序で申楽の由来を述べたあと、第一「年来稽古条々」は、七歳から五十歳あまりまで、年齢ごとの稽古の心得を説く。十二、三歳ごろの美少年の風情は「時分の花」にすぎず、まことの花ではないと戒め、三十四、五歳が芸の盛りで、ここで世に認められなければ、まことの花を極めていないと知れ、と厳しく言う。第二「物学条々」は、女、老人、直面(面を着けない役)、物狂、法師、修羅、神、鬼、唐事と、役柄ごとの演じ方を述べる。第三「問答条々」は問いと答えの形で、序破急の考え方、勝負に勝つ心得、位と格、花を知ることなどを論じる。第四「神儀云」は、申楽の起源を、天の岩戸の神話、釈迦の祇園精舎、聖徳太子と秦河勝の故事に求める。第五「奥義云」は、書名の由来と、大和の「物まね」を主とする風と近江の「幽玄」を主とする風の違い、田楽の名人一忠への敬意を述べ、衆人の愛敬を得ることこそ「一座建立の寿福」だと説く。最後の「別紙口伝」は、片仮名で書かれた秘伝である。花と、おもしろさと、珍しさは同じ心だと述べ、「秘すれば花なり、秘せずは花なるべからず」の言葉で、あらかじめ見せない工夫が観客の感動を生むと説き、一代に一人にだけ伝える大事の書だと結ぶ。
登場人物
- 世阿弥 著者。観阿弥の子で、能を大成した。奥書には「世」と署名する
- 観阿弥 世阿弥の父(作中では「亡父」)。大和猿楽の名人で、芸の師
- 一忠 田楽の名人。観阿弥が「我が風体の師」と仰いだ
- 秦河勝 聖徳太子に仕え、申楽の祖とされる人物
- 聖徳太子 河勝に命じて六十六番の遊宴を作らせたと伝えられる
冒頭部(原文より)
夫、申楽延年のことわさ、其源を尋ぬるに、或は仏在所よりをこり、或は神代より伝るといへとも、時うつり、代へたゝりぬれは、其風をまなふちからおよひかたし、ちか頃、万人のもてあそふ所は、推古天皇の御宇に、聖徳太子秦河勝に仰て、且は天下あんせむの為、且は諸人快楽の為、六十六番のゆうゑんを成て、申楽と号せしより此方、代々の人、風月の景を仮て、このあそひの中たちとせり、其後、かのかうかつの遠孫、この芸を相続て、春日日吉の神職たり、仍、和州江州のともから、両社の神事にしたかふ事、いまに盛なり、されは、古をまなひ、新をしやうする中にも、全風流をよこしまにする事なかれ。
「風姿花伝」世阿弥(青空文庫)
末尾部(原文より)
一、此別紙ノ口伝、当芸ニヲイテ、家ノ大事、一代一人ノ相伝ナリ、タトヘ一子タリトイフトモ、フキリヤウノモノニハツタフヘカラズ、「家々ニアラズツヽクヲモテイヘトス、人々ニアラズ、シルヲモテヒトヽス」トイヘリ、コレ万徳了達ノ妙花ヲキワムル所ナルヘシ、此別紙の条々、先年弟四郎相伝スルト云ヘトモ、「元次芸能感人タルニヨテ、是ヲ又伝所也、秘伝之、
「風姿花伝」世阿弥(青空文庫)
名文
時分の花を、まことの花とする心が、真実の花になを遠さかる心なり
若さゆえの一時の魅力(時分の花)を本当の花と思い込むことを戒める一節。能の稽古に励む者の慢心を突く、世阿弥の芸論の要。
原文を読む
原文はアプリに収録しています(縦書きで読めます)。底本:吉田東伍 校註「世阿彌十六部集」(能楽会、1909年)所収の「花傳書」と「花傳書別紙口傳」。国立国会図書館デジタルコレクションで公開されている底本の画像と、同館「次世代デジタルライブラリー」のOCRテキスト(パブリック・ドメイン)をもとに、画像と照らし合わせて校正し、風姿花伝の本文だけを収録した(校註者の序・解題・頭注、文字の脇のルビ・訓注・校異注記は省いた)。旧字は新字に改めた(仮名遣いは底本のまま)。