春着(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
紅葉門下の春を偲ぶ
- 文字数
- 9,759字
- 読了目安
- 約20分
- 表記
- 旧字旧仮名
- 種別
- 随筆
- 舞台
- 東京都
この作品について
泉鏡花の回想的な随筆。末尾に「大正十三年一月」とある。師・尾崎紅葉の句「あら玉の春着きつれて醉ひつれて」を掲げ、紅葉門下の弟子たちが師の掛けの帳面で春着を仕立て、元日に神楽坂をはしゃいで歩いた若い日を懐かしむ。川鉄で食事をした近ごろのできごとから、牛込界隈の移り変わり、紅葉や同門の逸話へと、思い出が連想のままに連なっていく。
あらすじ
冒頭に師・尾崎紅葉の句「あら玉の春着きつれて醉ひつれて」を掲げ、弟子たちが年の暮れに師の呉服屋への通帳を借りて春着を誂え、元日に神楽坂を歩いた若い日を回想する。話は、水上さんに誘われて牛込の川鉄を訪れた近年のできごとへ移り、お納戸町や南榎町の旧居、矢来、神楽坂界隈の変わりようが語られる。紅葉の俳句、同門の柳川春葉や後藤宙外らとの逸話、師が怪談を好まなかったこと、天ぷら屋で弟子たちが師を迎えて「おめでとう」と唱えた一幕など、思い出が連想のままに連なり、機嫌のよい紅葉の姿を描いて、陶淵明の詩句で結ばれる。
冒頭部(原文より)
あら玉の春着きつれて醉ひつれて 少年行と前がきがあつたと思ふ……こゝに拜借をしたのは、紅葉先生の俳句である。處が、その着つれてとある春着がおなじく先生の通帳を拜借によつて出來たのだから妙で、そこが話である。さきに秋冷相催し、次第に朝夕の寒さと成り、やがて暮が近づくと、横寺町の二階に日が當つて、座敷の明い、大火鉢の暖い、鐵瓶の湯の沸つた時を見計らつて、お弟子たちが順々、かく言ふそれがしも、もとよりで、襟垢、膝ぬけと言ふ布子連が畏まる。
「春着」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
それよりして以來――癇癪でなく、憤りでなく、先生がいゝ機嫌で、しかも警句雲の如く、弟子をならべて罵倒して、勢當るべからざる時と言ふと、つゝき合つて、目くばせして、一人が少しく座を罷り出る。「先生……(水)……」「何。」「蛤鍋へおともは如何で。」「馬鹿を言へ。」「いゝえ、大分、女中さんがこがれて居りますさうでございまして。」傍から、「えゝ煩つて居るほどだと申します事ですから。」……かねて、おれを思ふ女ならば、目つかちでも鼻つかけでもと言ふ、御主義?であつた。―― 紅葉先生、その時の態度は…… 采菊東籬下、 悠然見南山。
「春着」泉鏡花(青空文庫)
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