左の窓(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
汽車で辿る東海道の弥次喜多
- 文字数
- 1,984字
- 読了目安
- 約4分
- 表記
- 旧字旧仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
1904年(明治37年)7月、「新小説」に発表された旅の記。新橋から東海道線の汽車に乗った二人連れが、膝栗毛の弥次郎兵衛・喜多八になぞらえて「彌次」「喜多」を名乗り、車窓の景色に俳句を添えながら西へ向かう。駅ごとの句と、弁当や同乗の客をめぐる軽口が続く戯作調の紀行。
あらすじ
四月二十九日、まだ夜も明けぬうちに新橋を発つ汽車で、筆者は同行の喜多八とともに東海道を西へ向かう。品川、六郷、大船、山北、沼津、原、掛川、袋井、天龍川、浜名湖、豊橋、御油と、駅ごとに俳句を詠み、弁当や名物、車中で見かけた老人と京美人への冷やかしを、芝居がかった会話で交わす。袋井では怖がりな家主の娘へ、お化けの絵を添えた絵葉書を書く。雨がしだいに強まる夕方、御油の宿で遅桜の花を杯にうけて飲みはじめ、汽車が出ると窓を閉ざして終わる。
冒頭部(原文より)
今年四月二十九日、新橋發、汽車は午前六時半なれども、三十日を前に控へたれば、未だ夜の明けぬに出立つ。夜逃の體に似たるかな。旅馴れぬ身のしをらしくも心急きたるなり。柳の翠ほのぼのと、丸の内を馳らすれば、朝靄のやゝ動くが、車の轍にまとひ、薄綿の大路靜に、停車場に着く。 あわたゞしき漢の習とて、待つ間もどかしく、とかくして汽車に乘れば、瞬く間に品川なり。
「左の窓」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
御油に至りて風情異なり。屋根をつたふ雫とく/\、瓦斯燈の影に遲櫻枝もたわゝなるが窓近う咲亂れて、葉も明く、花の露はら/\と今留まりし汽車の名殘に靡き留まず、居ながら掌に汲むべかりけり。 葉櫻に御油の灯や宵の雨 風情なるかな、即ち杯にうけて喜多と又飮みはじむ。彼處にも此處にも人寢たり。老爺の如きは、美人の膝を枕しき。彼もさしうつむくや、雨をいとふらん。汽車出でつ。窓を塞ぐ。
「左の窓」泉鏡花(青空文庫)
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