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雛がたり(泉鏡花)のあらすじ・登場人物

母の雛を思えば遥かに竜宮の幻

泉鏡花 1917年(大正6年)3月 「新小説」

文字数
4,084字
読了目安
約8分
表記
新字新仮名
種別
随筆
舞台
  • 石川県

この作品について

桜雛、柳雛、花菜の雛、豆雛——雛の名を数えあげるところから始まる泉鏡花の随筆。母の雛壇の記憶、北国の遅い節句、旅先で見た雛の面影が、鏡花独特の華やかな文体で連ねられる。小さくて愛らしいものへの偏愛と、亡き母への思慕が、そこかしこに滲む一編。

あらすじ

「雛――女夫雛は言うもさらなり。桜雛、柳雛、花菜の雛、桃の花雛、白と緋と、紫の色の菫雛」——雛の名を次々に数えあげ、鄙のつくし雛や相合傘の春雨雛にまで及ぶ。黒棚、御廚子、三棚、箪笥、長持、金高蒔絵に銀金具。小指ほどの抽斗を開けると中が紅いのも美しい。白酒を入れたぎやまん、緋の毛氈に映える柳鰈や小町蝦、業平蜆——どれも小さいほど愛らしく、その並んださまは竜宮を見るようだ、と鏡花は書く。「もしもし何処で見た雛なんですえ」と問われれば、六、七歳のころに覚えている母親の雛だ、と答える。ふる郷は山の彼方に遠い。たいした金目のものではなかったろうが、紅糸で底を結えた手遊の猪口も、金米糖の壷も、江戸から長い旅路を馬や駕籠で運ばれてきたと思えば、千代紙の箱の南京砂さえ紅玉であり緑珠である。北国の三月はまだ雪が消えないので、節句は四月にしたらしい——冬籠の窓が開き、荒海の轟きが春風にかわり、梅も桜も桃も一斉に開くころのことである。後半は、東海道の旅の途中で見た情景へと移る。柳の梢に逆さに映る雛壇の影、橋を渡る白い虹、陽炎の遊ぶ阿部川。餅屋の前の綺麗な娘に「若き娘に幸あれ」と祈りながら、鏡花は偐紫の源氏雛を欲しがってみせ、「この辺は些と酔ってるでしょう」と自ら笑って筆を置く。

冒頭部(原文より)

 雛――女夫雛は言うもさらなり。桜雛、柳雛、花菜の雛、桃の花雛、白と緋と、紫の色の菫雛。鄙には、つくし、鼓草の雛。相合傘の春雨雛。小波軽く袖で漕ぐ浅妻船の調の雛。五人囃子、官女たち。ただあの狆ひきというのだけは形も品もなくもがな。紙雛、島の雛、豆雛、いちもん雛と数うるさえ、しおらしく可懐い。

「雛がたり」泉鏡花(青空文庫)

末尾部(原文より)

 欲いのは――もしか出来たら――偐紫の源氏雛、姿も国貞の錦絵ぐらいな、花桐を第一に、藤の方、紫、黄昏、桂木、桂木は人も知った朧月夜の事である。    照りもせず、くもりも果てぬ春の夜の……  この辺は些と酔ってるでしょう。

「雛がたり」泉鏡花(青空文庫)

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