イーハトーボ農学校の春(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
太陽マジックのうたが鳴る春
- 文字数
- 2,842字
- 読了目安
- 約6分
- 表記
- 新字新仮名
- 舞台
- 岩手県
この作品について
花巻農学校の教師だった賢治の経験を映した、春の実習風景の断章。太陽の光と生徒たちの喜びが交じり合い、「太陽マジックのうた」が空いっぱいに鳴り響く。寒い冬を耐えた生徒たちの姿と、光や空気の感覚が、童話というより散文詩のように描かれる。賢治が教師時代の自然観察を作品へ変えていく過程が見える。
あらすじ
太陽マジックの歌が青空いっぱいにごうごうと鳴っている日、「わたしたち」は黄いろの実習服を着て、くずれかかった煉瓦の肥溜のところへ集まる。冬のあいだ唇が青ざめて震えていた阿部時夫も、今日はいきいきとした顔でにかにか笑っている。彼は体が悪かったのではなく、シャツを一枚しか持っていなかったのだ。空はまっ青で、枯れ草も桑林も眩しい。ひばりは砂糖水のように空気をふるわせ、胸の底から湧く嬉しさに誰もが笑い出す。生徒のひとりが太陽のコロナの数字を口にし、リシウムの紅焔のようだと驚く。木の幹にも地下茎にも月光色の樹液がゆれはじめ、早い萱草やつめくさの芽には黄金色の小さな光が点る。
冒頭部(原文より)
太陽マジックのうたはもう青ぞらいっぱい、ひっきりなしにごうごうごうごう鳴っています。 わたしたちは黄いろの実習服を着て、くずれかかった煉瓦の肥溜のとこへあつまりました。 冬中いつも唇が青ざめて、がたがたふるえていた阿部時夫などが、今日はまるでいきいきした顔いろになってにかにかにかにか笑っています。ほんとうに阿部時夫なら、冬の間からだが悪かったのではなくて、シャツを一枚しかもっていなかったのです。それにせいが高いので、教室でもいちばん火に遠いこわれた戸のすきまから風のひゅうひゅう入って来る北東の隅だったのです。
「イーハトーボ農学校の春」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
おや、このせきの去年のちいさな丸太の橋は、雪代水で流れたな、からだだけならすぐ跳べるんだが肥桶をどうしような。阿部君、まず跳び越えてください。うまい、少しぐちゃっと苔にはいったけれども、まあいいねえ、それではぼくはいまこっちで桶をつるすから、そっちでとってくれ給え。そら、重い、ぼくは起重機の一種だよ。重い、ほう、天びん棒がひとりでに、磁石のように君の手へ吸い着いて行った。太陽マジックなんだほんとうに。うまい。 (※‥‥‥ ※‥‥‥ ) 楊の木でも樺の木でも、燐光の樹液がいっぱい脈をうっています。
「イーハトーボ農学校の春」宮沢賢治(青空文庫)
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