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十六夜(泉鏡花)のあらすじ・登場人物

震災後の十五夜と十六夜

泉鏡花 1923年(大正12年)10月

文字数
8,399字
読了目安
約17分
表記
旧字旧仮名
種別
随筆

この作品について

1923年(大正12年)9月の関東大震災ののち、同年10月の日付で書かれた随筆。大暴風雨をはさんで迎えた旧暦八月十五夜とその翌夜の、町内の様子を記す。見舞い客とのやりとり、夜警、漏電騒ぎ、はぐれ馬の騒動など、被災後の暮らしがユーモアを交えて綴られる。

あらすじ

中秋の十五夜の前夜に暴風雨が荒れ、十時から十一時にかけて台風の中心が東京を通る。夜警の声に、家の者は位牌を包んで逃げる支度をし、拍子木が乱れると近所で火事が起きる。結局、漏電で出た火は兵士らの働きで消えとめられた。夜が明けると庭先は銀杏の青葉で埋まり、雨の名残の中で一粒の銀杏の実が見つかる。十五夜には快晴となり、花屋でお月見の薄を買い、見舞いの客が次々に訪れる。能役者の松本長は、焼け出されても面だけは救ったと明るく笑い、文士仲間の水上さんや久保田さんの話も出てくる。夕方、二階から焦げた臭いがして慌てるが、隣家が焚きつけに紙を燃やしたにおいと分かり、笑い話になる。そこへ主のいない馬が荷車を引いて現れ、町内が大騒ぎになる。翌十六夜にも強い余震があり、筆者は恐れながら筆を執る。月の光が、亡くなった人々の黒髪か、落ち葉のようにさまよう影に薄霧を敷いていた。

冒頭部(原文より)

 きのふは仲秋十五夜で、無事平安な例年にもめづらしい、一天澄渡つた明月であつた。その前夜のあの暴風雨をわすれたやうに、朝から晴れ/″\とした、お天氣模樣で、辻へ立つて日を禮したほどである。おそろしき大地震、大火の爲に、大都は半、阿鼻焦土となんぬ。お月見でもあるまいが、背戸の露草は青く冴えて露にさく。……廂破れ、軒漏るにつけても、光りは身に沁む月影のなつかしさは、せめて薄ばかりも供へようと、大通りの花屋へ買ひに出すのに、こんな時節がら、用意をして賣つてゐるだらうか。……覺束ながると、つかひに行く女中が元氣な顏して、花屋になければ向う土手へ行つて、葉ばかりでも折つぺしよつて來ませうよ、といつた。いふことが、天變によつてきたへられて徹底してゐる。

「十六夜」泉鏡花(青空文庫)

末尾部(原文より)

 その翌日――十六夜にも、また晩方強震があつた――おびえながら、この記をつゞる。 時に、こよひの月は、雨空に道行きをするやうなのではない。かう/″\しく、そして、やさしく照つて、折りしもあれ風一しきり、無慙にもはかなくなつた幾萬の人たちの、燒けし黒髮かと、散る柳、焦げし心臟かと、落つる木の葉の、宙にさまよふと見ゆるのを、撫で慰さむるやうに、薄霧の袖の光りを長く敷いた。

「十六夜」泉鏡花(青空文庫)

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