十二支考(犬)(南方熊楠)のあらすじ・登場人物
犬はなぜ、立って歩けなくなったか
- 文字数
- 30,218字
- 読了目安
- 約1時間
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
「十二支考」のうち戌年にあたる「犬に関する伝説」。1922年(大正11年)「太陽」に四回にわたって連載された。南洋の土人が語る犬の起原譚から始まり、上帝が動物たちの寿命を定めたというルーマニアの伝説、猫と犬が不仲になった理由を説くエストニアの民話などを紹介する。末尾では桃太郎が犬を伴って鬼が島を伐つ話に似た類話が南洋のタヒチにもあることを指摘している。
あらすじ
南洋ニューブリテン島の土人の説に、犬はもと直立して歩き、たいそう速く走って多くの人を殺した。そこで生き残った人間が相談し、パンの実を熱してその種子を犬の通り道に撒いた。犬はこれを踏んで足を焼き、倒れて手も焦がし、それより立って歩けなくなった。その種子は今も犬の足の裏に球となって残っているという——熊楠はそんな話から筆を起こす。次に明治十五年、高野登山の途次に見た十八歳の老犬の記憶を語り、犬の寿命についての西洋の記録を並べる。ルーマニアの伝説では、上帝が生物を召集して寿命と暮らし方を定めたとき、犬は四十年も骨ばかり食う難儀を嫌って二十年に減らしてくれと願い、人間がその余りを貰い受けた。驢からも猴からも同じように年を譲り受けたので、人は三十を過ぎれば驢のように苦労し、五十を過ぎれば犬のように吠え、七十を過ぎれば猴のように笑われるのだという。エストニアの民話では、犬が牧羊犬に預けた免状を猫が失くしたことから両者が不仲になったと説く。結びには、犬を伴って怪物を退治するタヒチ島のヒロの伝説を挙げ、桃太郎譚との類似を指摘している。
冒頭部(原文より)
南洋ニュウブリツン土人の説に、犬はもと直立して歩み甚だ速やかに走って多くの人を殺した。そこで生き残った人間が相談して、麪包果を極めて熱しその種子を犬の通路に撒いた。犬これを踏んで足を焼き、倒れて手をも焦し、それより立って歩む事叶わず。その種子今も、犬の足の裏に球となって残りあるという。
「十二支考(犬)」南方熊楠(青空文庫)
末尾部(原文より)
ここにはただ桃太郎が鬼が島を伐つに犬を伴れ行ったという類話が南洋にもある事を述べよう。タヒチ島のヒロは塩の神で、好んで硬い石に穴を掘る。……ある時ヒロ窟中に眠れるに乗じ闇の神来って彼を滅ぼさんとす。一犬たちまち吠えて主人を寤まし、ヒロ起きて衆敵を平らぐ。ヒロの舟と柁、並びにかの犬化して山と石になり、その島に現存すというのだ。
「十二支考(犬)」南方熊楠(青空文庫)
原文を読む
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