十二支考(馬)(南方熊楠)のあらすじ・登場人物
意馬の走るにまかせて語る馬の話
- 文字数
- 90,767字
- 読了目安
- 約3時間2分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
「十二支考」のうち午年にあたる「馬に関する民俗と伝説」。1918年(大正7年)「太陽」に断続して連載された、連作中でも屈指の長編である。馬と驢はアジア・ヨーロッパ・アフリカを原産として世界中に広まったため、それにまつわる伝説は数えきれないと述べ、仏典の智馬の譚から始めて、意の馬の走るにまかせて古今東西の馬の話を書き連ねる。末尾では白馬を「あおうま」と読む理由を、色の認識そのものの歴史から論じてみせる。
あらすじ
「隙行く駒の足早くて午の歳を迎うる今日明日となった」——熊楠はそう書き起こす。十二支に配られた動物に優劣はないが、付き添う伝説の多寡には著しい差がある。羊は日本に多くないから和製の羊譚はほとんど聞かず、猴の話は東洋に多くとも欧州には産しないから彼方の古伝が乏しい。これに反して馬はアジアと欧州の原産、その弟ともいうべき驢はアフリカが本元で、そこから世界中へ広まったから、その話は数えきれないほどある。ありふれた和漢の故事を述べては「またその話か」と言われるのを虞れて、熊楠はまず唐訳の律蔵から最もめでたい智馬の譚を約説して祝辞に代え、あとは意馬の奔るにまかせて思いつくままに雑言すると宣言する。馬の名義、名馬の伝説、馬と婚姻の説話、馬を犠牲とする祭祀、馬の妖怪。結びでは正月七日の白馬(あおうま)の節会を取り上げ、なぜ白馬を「あおうま」と読むのかを論じる。色の認識は温度や電力のように精密に測れず、古くは淡い諸色をすべて白と呼んだこと、雪上の影が紫に見えることから支那で濃紫を雪青と名づけたことなどを挙げ、光線の具合で白が青く見えるためだろうと結ぶ。
冒頭部(原文より)
伝説一 隙行く駒の足早くて午の歳を迎うる今日明日となった。誠や十二支に配られた動物輩いずれ優劣あるべきでないが、附き添うた伝説の多寡に著しい逕庭あり。たとえば羊は今まで日本に多からぬもの故和製の羊譚はほとんど聞かず。猴の話は東洋に少なからねど、欧州に産せぬから彼方の古伝が乏しい。
「十二支考(馬)」南方熊楠(青空文庫)
末尾部(原文より)
すべて色は温度電力等と違い、数度もて精しく測定し得ず、したがって常人はもとより、学者といえども、見る処甚だ同じからず。……古え色を別つ事すこぶる疎略にて、淡き諸色をすべて白色といいし由……高山の雪上の物影は、快晴の日紫に見ゆる故、支那で濃紫色を雪青と名づくと説きし人あり、紫を青と混じての名なり、光線の具合で白が青く見ゆるは、西京辺の白粉多く塗れる女等にしばしば例あり、かかる訳にて、白馬を青馬と呼ぶに至りしなるべし。
「十二支考(馬)」南方熊楠(青空文庫)
原文を読む
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