十二支考(虎)(南方熊楠)のあらすじ・登場人物
博識が縦横に語る虎の民俗
- 文字数
- 54,686字
- 読了目安
- 約1時間49分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
南方熊楠の代表作「十二支考」の一編。十二支の動物にまつわる古今東西の説話・伝説・民俗を博引旁証する連作評論のうち、寅年にちなむ「虎」を論じたもので、1914年(大正3年)「太陽」に発表された。虎の名の由来から、その記載、方術・卜占にまつわる迷信、さらには狼や猴が人の子を育てる話まで、東西の文献を縦横に引きながら、驚異的な博識で人と獣をめぐる想像力の系譜をたどる。
あらすじ
「名義の事」では、虎の梵名・タミル名・アラブ名から英語タイガーまでを並べ、その語源をペルシア語の「箭(や)」に結びつけて、虎が矢のように疾く走ると信じられた由来を説く。続いて虎の生態の記載や、日本で虎を「手飼の虎」と呼び猫になぞらえた例などを、『源氏物語』ほか無数の書物から引く。後半では、虎が地を画いて獲物を占う「虎卜」の迷信や、虎に食われるのは前世の因果だとする安南人の俗信、虎が人に化けて予言し術者が虎に化けるという物語などを紹介する。さらに、日本の山の神(狼)が人の子を助け育てた実例や、南アフリカで猴の群れに育てられた男児のロンドン発の新聞記事までを引き、虎から狼・猴へと連想を広げながら、人と獣とをめぐる世界各地の説話を渉猟してゆく。
冒頭部(原文より)
(一)名義の事 虎梵名ヴィヤグラ、今のインド語でバグ、南インドのタミル語でピリ、ジャワ名マチャム、マレー名リマウ、アラブ名ニムル、英語でタイガー、その他欧州諸国大抵これに似おり、いずれもギリシアやラテンのチグリスに基づく。そのチグリスなる名は古ペルシア語のチグリ(箭)より出で、虎の駛く走るを箭の飛ぶに比べたるに因るならんという。わが国でも古来虎を実際見ずに千里を走ると信じ、戯曲に清正の捷疾を賞して千里一跳虎之助などと洒落て居る。
「十二支考(虎)」南方熊楠(青空文庫)
末尾部(原文より)
また大分新らしいのは猴が人の子を養うというやつだ。というと、板垣退助伯の娘猿子の名などより仕組んだ咄など邪推されんが、予の手製でなく、昨年八月九日ロンドン発行『モーニング・ポスト』紙に出た。二十五年前喜望峯東南州の荒野で邏卒二名が猴群に雑った一男児をみつけ、伴れ帰ってルカスと名づけ、農業を教えると、智慧は同侶に及ばねど力量と勤勉と信用は優り、よく主人に仕え、殊にその子を守るを好む。珍な事はこの者に時という観念全くなしとの事だ。(完)
「十二支考(虎)」南方熊楠(青空文庫)
名文
虎梵名ヴィヤグラ、今のインド語でバグ、南インドのタミル語でピリ、ジャワ名マチャム、マレー名リマウ、アラブ名ニムル、英語でタイガー、その他欧州諸国大抵これに似おり、いずれもギリシアやラテンのチグリスに基づく。
『十二支考』の「虎」の書き出し。いきなり諸国語の虎の名を並べ立てる語り口に、東西の文献を縦横に引く熊楠の博識が表れている。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。