十二支考(兎)(南方熊楠)のあらすじ・登場人物
月の兎から、因幡の素兎まで
- 文字数
- 18,556字
- 読了目安
- 約37分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
南方熊楠の代表作「十二支考」の一編。卯年にちなむ「兎に関する民俗と伝説」で、1915年(大正4年)「太陽」に発表された。まず兎(ヘヤー)と熟兎(ラビット)の区別を諸国語の名称から論じ、東西の書物が兎について伝えてきた誤った説を検証していく。因幡の素兎に似た説話が南アジアやヨーロッパにも分布することを示し、一つの動物をめぐる想像力が国境を越えて共有されてきたさまを描き出す。
あらすじ
熊楠はまず、この一篇で「兎」と書くものと「熟兎」と書くものの区別を断る。前者は英語のヘヤー、独名ハーセ、ラテン名レプス、梵名舎々迦にあたり、後者は英語のラビット、仏語のラピン、独名カニンヘンにあたる。和歌山で子を寝かせる唄に「かちかち山の兎は笹の葉を食う故耳が長い」とあったのは、梵語の舎々迦に拠ったものではあるまい——そんな連想から筆は自在に走り出す。続いて、東西の書物が兎について伝えてきた説を検証する。『本草綱目』に兎に脾臓なしとあること、尻に九孔ありとする珍説、兎を食えば欠唇の子が生まれるという支那の妊婦の俗信。熊楠は自ら兎狩りの猟師に聞いた話まで持ち出して、これらの俗説がどこから生じたかを推し量る。さらに話は仏典の月の兎、亀と金翅鳥の競走譚、ドイツの矮身の縫工が巨人を欺く話へと広がり、最後に、亀が諸獣を欺いた話に似たものとして『古事記』の因幡の素兎を挙げ、その類話と起原は稿を改めて説くと結ばれる。
冒頭部(原文より)
この一篇を綴るに先だち断わり置くは単に兎と書いたのと熟兎と書いた物との区別である。すなわちここに兎と書くのは英語でヘヤー、独名ハーセ、ラテン名レプス、スペイン名リエプレ、仏名リエヴル等が出た、アラブ名アルネプ、トルコ名タウシャン、梵名舎々迦、独人モレンドルフ説に北京辺で山兎、野兎また野猫児と呼ぶとあった。
「十二支考(兎)」南方熊楠(青空文庫)
末尾部(原文より)
前に述べた亀が諸獣を紿いた話に似たのはわが邦にも『古事記』に因幡の素兎が鰐を欺き海を渡った話がある、この話の類譚や起原は正月十五日か二月一日の『日本及日本人』で説くつもりである。
「十二支考(兎)」南方熊楠(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。