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十二支考(猴)(南方熊楠)のあらすじ・登場人物

猿を追って、言語と伝説を渡り歩く

南方熊楠 1920年(大正9年)1月 「太陽」

文字数
67,965字
読了目安
約2時間16分
表記
新字新仮名
種別
随筆

この作品について

「十二支考」のうち申年にあたる「猴に関する伝説」。1920年(大正9年)「太陽」に断続して連載された。猿という一語を諸国語で追いかけ、ソロモン王が招致した猴がインド産であったことをヘブライ語の語源から論証する冒頭から、熊楠らしい比較言語と博物学の手さばきが冴える。概言・性質・民俗と項目を立て、猿をめぐる世界各地の伝承と信仰を集大成した一編である。

あらすじ

一条摂政兼良公の顔は猿によく似ていた。十三歳の元服の折、虚空に「猿のかしらに烏帽子きせけり」という声が聞こえると、公はたちまち「元服は未の時の傾きて」と付けたという——そんな逸話を枕に、未の年も傾いて申の年が迫るので猴の話を書けと勧められた、と熊楠は筆を起こす。まず猴の呼び名を諸国語に追う。ヘブライ語コフ、エチオピア語ケフ、ペルシア語ケイビ、ギリシア名ケポス、ラテン名ケブス、梵名カピ。『旧約全書』の成ったパレスチナに猴は産しないが、ソロモン王がタルシシュの船で三年に一度もたらした金銀・象牙・猴・孔雀のうち、象牙も孔雀も猴もヘブライ本来の語ではなくインドの語に基づく。ゆえにソロモンの猴も象もアフリカ産ではなくインド産と判る——こうした語源の論証から、アッシリアの黒尖碑に彫られた象と猴、インドのハヌマン猴信仰へと話は進む。以下、猴の性質、猴にまつわる民俗、猴と人との関係が縦横に語られ、結びでは象厩に猴を飼うと象が息災になるという信仰を取り上げ、邪視を猴が避雷針のように導き去るのだと説きつつ、心理学者・農学者・獣医の研究を俟つと結んでいる。

冒頭部(原文より)

(一)概言  一条摂政兼良公の顔は猿によく似ていた。十三歳で元服する時虚空に怪しき声して「猿のかしらに烏帽子きせけり」と聞えると、公たちまち縁の方へ走り出で「元服は未の時の傾きて」と附けたそうだ。予が本誌へ書き掛けた羊の話も例の生活問題など騒々しさに打ち紛れて当世流行の怠業中、未の歳も傾いて申の年が迫るにつき、猴の話を書けと博文館からも読者からも勧めらるるまま今度は怠業の起らぬよう手短く読切として差し上ぐる。

「十二支考(猴)」南方熊楠(青空文庫)

末尾部(原文より)

 終りに述べ置くは、インドとシャムで象厩に猴を畜えば、象を息災にすと信ずる由書いたが……邪気とは只今学者どものいう邪視で、猴が避雷針様に邪視力を導き去るから、象、難を免るるのだ。……惟うに害虫駆除とか邪視を避くるとかのほかに、実際、象、馬、牛は天禀猴を好むのかも知れぬ。この事深く心理学者や農学者、獣医諸君の研究を俟つ次第である。

「十二支考(猴)」南方熊楠(青空文庫)

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