純情小曲集(萩原朔太郎)のあらすじ・登場人物
「ふらんすへ行きたしと思へども」
- 文字数
- 8,607字
- 読了目安
- 約17分
- 表記
- 旧字旧仮名
- 舞台
- 群馬県
この作品について
萩原朔太郎が1925年(大正14年)8月、新潮社から刊行した第二詩集。少年期の作を集めた「愛憐詩篇」と、比較的新しい「郷土望景詩」十篇とを、ともに詠嘆的な文語調の純情詩としてまとめている。「愛憐詩篇」の典雅で甘美な抒情から、故郷前橋の風物に自らの鬱屈と怒りを重ねた「郷土望景詩」の激しさまで、朔太郎の詩業のふり幅を伝える。とりわけ「旅上」――「ふらんすへ行きたしと思へども/ふらんすはあまりに遠し」――は、青春の憧憬をうたって広く愛誦され、教科書にも採られてきた名詩である。
あらすじ
「愛憐詩篇」は、朔太郎が詩を書きはじめたころの、あやめ香水の匂うような典雅で甘美な少年期の抒情をあつめる。「夜汽車」「こころ」「旅上」「金魚」など、みずみずしい感傷とほのかな官能に彩られた詩篇が並び、なかでも「旅上」は、新しい背広を着てせめて気ままな旅にでも出たいという、遠いフランスへの届かぬ憧れをうたって名高い。一方、後半の「郷土望景詩」十篇は、詩人が長く住んだ故郷・前橋とその風物を題材にしながら、そこに自らの孤独と鬱屈、そして人々への激しい怒りを刻みつける。「波宜亭」「大渡橋」「公園の椅子」など、烈しい文語のリズムに乗せて、故郷に容れられぬ者の痛切な叛逆と望郷とがうたわれる。甘やかな抒情から苛烈な自己主張へ――朔太郎という詩人の二つの相を一冊に収めた、近代詩の重要な詩集である。
冒頭部(原文より)
旅上 ふらんすへ行きたしと思へども ふらんすはあまりに遠し せめては新しき背廣をきて きままなる旅にいでてみん。 汽車が山道をゆくとき みづいろの窓によりかかりて われひとりうれしきことをおもはむ 五月の朝のしののめ うら若草のもえいづる心まかせに。
「純情小曲集」萩原朔太郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
公園の椅子 人氣なき公園の椅子にもたれて われの思ふことはけふもまた烈しきなり。 いかなれば故郷のひとのわれに辛く かなしきすももの核を噛まむとするぞ。 遠き越後の山に雪の光りて 麥もまたひとの怒りにふるへをののくか。 われを嘲けりわらふ聲は野山にみち 苦しみの叫びは心臟を破裂せり。 かくばかり つれなきものへの執着をされ。 ああ生れたる故郷の土を蹈み去れよ。 われは指にするどく研げるナイフをもち 葉櫻のころ さびしき椅子に「復讐」の文字を刻みたり。
「純情小曲集」萩原朔太郎(青空文庫)
名文
ふらんすへ行きたしと思へども ふらんすはあまりに遠し
「旅上」の書き出し。行けないと知りながら憧れを口にし、せめて新しい背広で汽車に乗ろうという、口語自由詩の軽やかな名句。
原文を読む
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