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月に吠える(萩原朔太郎)のあらすじ・登場人物

日本近代詩を変えた第一詩集

萩原朔太郎 1917年(大正6年)2月

文字数
27,533字
読了目安
約55分
表記
新字旧仮名

この作品について

1917年(大正6年)2月、感情詩社と白日社出版部から刊行された萩原朔太郎の第一詩集。北原白秋の序と室生犀星の跋を伴い、初版本の装丁には恩地孝四郎、挿絵や口絵には田中恭吉と恩地が関わった。「地面の底の病気の顔」「竹」「およぐひと」などを収め、植物や動物、身体や街の風景を通して、不安や孤独を感覚に触れる形にする。地面に生える竹と人間の涙が同じ詩のなかに現れるなど、外の景色と心の内が分かちがたく重なる。語句の反復や行の切れ目が生むリズムも、その不思議な感触を支えている。著者は序で、出来事や思想の説明より、言葉にしにくい感情そのものを伝えることに詩の目的を置いた。日常の言葉を用いる口語自由詩に、声に出して読むときの響きと、目に浮かぶ像の鋭さを併せ持たせた一冊である。

あらすじ

「竹とその哀傷」「雲雀料理」「月に吠える」など全篇にわたって、萩原朔太郎は病んだ魂のまなざしがとらえる世界を、透きとおった口語のリズムで描き出す。巻頭の「地面の底の病気の顔」では、地の底から萌え出る青竹の根と病人の顔とが不気味に重なり合い、生命の芽吹きそのものが哀しみとして立ちあらわれる。名高い「竹」では、光る地面にまっすぐ突き立つ青竹の凛とした生命力が、繰り返しのリズムに乗って鮮烈に歌われる。ほかにも、腐った蛤やさびしい情慾、月夜に吠える犬など、生理的な嫌悪や恐怖、孤独の感覚が、比喩と音楽性に満ちた言葉で結晶化されてゆく。詩人はみずからの詩を「病める魂の所有者と孤独者との寂しいなぐさめ」と呼び、説明も理屈も及ばない感情そのものの本質を、リズムによって以心伝心に伝えようとする。近代人の内面にひそむ不安と戦慄を、これほど繊細に、これほど新鮮な言語感覚で定着させた詩集はそれまでになく、日本の詩の歴史を大きく塗り替えた一巻である。

冒頭部(原文より)

地面の底の病気の顔 地面の底に顔があらはれ、 さみしい病人の顔があらはれ。 地面の底のくらやみに、 うらうら草の茎が萌えそめ、 鼠の巣が萌えそめ、 巣にこんがらかつてゐる、 かずしれぬ髪の毛がふるえ出し、 冬至のころの、 さびしい病気の地面から、 ほそい青竹の根が生えそめ、 生えそめ、 それがじつにあはれふかくみえ、 けぶれるごとくに視え、 じつに、じつに、あはれふかげに視え。

「月に吠える」萩原朔太郎(青空文庫)

末尾部(原文より)

竹 光る地面に竹が生え、 青竹が生え、 地下には竹の根が生え、 根がしだいにほそらみ、 根の先より繊毛が生え、 かすかにけぶる繊毛が生え、 かすかにふるえ。 かたき地面に竹が生え、 地上にするどく竹が生え、 まつしぐらに竹が生え、 凍れる節節りんりんと、 青空のもとに竹が生え、 竹、竹、竹が生え。

「月に吠える」萩原朔太郎(青空文庫)

名文

光る地面に竹が生え、 青竹が生え、 地下には竹の根が生え、 根がしだいにほそらみ、 根の先より繊毛が生え、 かすかにけぶる繊毛が生え、 かすかにふるえ。

詩集の代表作「竹」の第一連。地下の根から地上へ突き上がる竹の生命力を、同じ語の反復だけで研ぎ澄ませた。

まつくろけの猫が二疋、 なやましいよるの家根のうへで、 ぴんとたてた尻尾のさきから、 糸のやうなみかづきがかすんでゐる。 『おわあ、こんばんは』 『おわあ、こんばんは』 『おぎやあ、おぎやあ、おぎやあ』 『おわああ、ここの家の主人は病気です』

詩「猫」の全編。屋根の上で交わされる猫の鳴き声を会話のように写し取った擬音が、不気味でありながら愛嬌もある。口語自由詩の新しさを示した『月に吠える』の代表的な一篇。

蛙が殺された、 子供がまるくなつて手をあげた、 みんないつしよに、 かわゆらしい、 血だらけの手をあげた、 月が出た、 丘の上に人が立つてゐる。 帽子の下に顔がある。

詩「蛙の死」の全編。無邪気な子供たちの「血だらけの手」と、丘の上に立つ人影とが並べられ、ありふれた風景が不気味な幻想へと変わる。

詩は神秘でも象徴でも鬼でもない。詩はただ、病める魂の所有者と孤独者との寂しいなぐさめである。

詩集の自序の一節。詩を神秘や象徴の技巧から解き放ち、病める魂と孤独な者の慰めと言い切った言葉は、朔太郎の詩の出発点を示すものとして引かれる。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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