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悲しき玩具(石川啄木)のあらすじ・登場人物

三行に刻まれる暮らしの息遣い

石川啄木 1912年(大正元年)6月

文字数
6,012字
読了目安
約12分
表記
新字旧仮名

この作品について

1912年6月、石川啄木の没後に東雲堂から刊行された第二歌集。『一握の砂』以後の短歌194首を収め、書名は啄木の歌論に基づいて土岐哀果が付けた。病に悩む身体、勤めの疲れ、金銭の不自由、家族への複雑な思いが、日々の小さな動作や言葉に託されている。冒頭の胸の音を聞く歌から、子供の玩具を走らせたり、妻に本が欲しいと言ってみたりする歌へ、暮らしの断片が続く。三行に分かれた一首には句読点や言いさしがあり、感情を整えて結論にする前の、ためらいや息継ぎまで感じられる。悲しみばかりでなく、湯気に触れる心地よさや、ふと明日を期待する気持ちも姿を見せる。社会への関心と自分自身への苛立ちが、一人の生活の中で離れずにあることも読みどころ。大きな出来事の記録とは異なる形で、揺れ動く心の一瞬を言葉にとどめた歌集である。

あらすじ

「呼吸すれば、胸の中にて鳴る音あり。凩よりもさびしきその音!」——肺を病んだ啄木の最晩年、1910年(明治43年)末から死の直前までの歌194首を収める歌集。勤め先を休んで河岸をさまよう日、病院の窓から見た空、目を閉じても心に浮かぶもののない虚脱。幼い子への愛おしさ、妻や母への済まなさ、それでも捨てられない「新しき明日」への期待。薬を飲み忘れることにさえ心の動きを見つめ、死の床の枕辺の日常が一首一首に刻まれていく。歌集の末尾近くには、庭の外を行く白い犬を振り向いて「犬を飼はむと妻にはかれる」といった、ささやかな暮らしの一齣がそっと置かれる。友人・土岐哀果の編集により死後に刊行された本書は、生活の言葉で生活の悲哀を歌い切り、『一握の砂』とともに啄木の名を不朽にした。

冒頭部(原文より)

呼吸すれば、 胸の中にて鳴る音あり。  凩よりもさびしきその音! 眼閉づれど、 心にうかぶ何もなし。  さびしくも、また、眼をあけるかな。

「悲しき玩具」石川啄木(青空文庫)

末尾部(原文より)

縁先にまくら出させて、  ひさしぶりに、  ゆふべの空にしたしめるかな。 庭のそとを白き犬ゆけり。  ふりむきて、  犬を飼はむと妻にはかれる。

「悲しき玩具」石川啄木(青空文庫)

名文

呼吸すれば、 胸の中にて鳴る音あり。  凩よりもさびしきその音!

死の前年まで書き継がれた第二歌集の巻頭歌。肺を病んだ胸の中の音に耳を澄ます、痛切な自己観察。

何となく、 今年はよい事あるごとし。 元日の朝、晴れて風無し。

元日の朝の晴れやかな気分を詠んだ歌。病と貧しさに苦しんだ晩年の啄木が、つかの間の希望を平明な言葉で書きとめている。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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