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菊池君(石川啄木)のあらすじ・登場人物

極寒の釧路で出会った人

石川啄木 

文字数
22,920字
読了目安
約46分
表記
新字旧仮名
種別
小説
舞台
  • 北海道

この作品について

石川啄木が釧路での新聞記者生活を題材に、1908年(明治41)5月に書いた短篇。生前には発表されなかった。極寒の地に着いた「自分」が、新聞社で出会う人々、とくに「菊池君」に注目する。啄木の釧路時代の観察眼とユーモアがうかがえる、北海道放浪期の貴重な作品である。

あらすじ

一月下旬、寒さの最も厳しい時期に、語り手の「私」は釧路の新聞社へ赴任する。華氏の寒暖計は毎朝零下二十度から三十度の間を上下し、停車場から宿屋までのわずかな距離でも、首巻が呼気で白く凍る。翌朝には茶碗が割れ、顔を洗う湯も川水ほどに冷える。そうした土地で、新聞社の同僚や下宿の人々、町の様子が描かれる。終盤、同僚の小松君が「毎日の菊池ですね」と話題に出し、菊池という男の印象が語られる。末尾に「生前未発表・明治四十一年五月稿」とある。

冒頭部(原文より)

     一  私が釧路の新聞へ行つたのは、恰度一月下旬の事、寒さの一番酷しい時で、華氏寒暖計が毎朝零下二十度から三十度までの間を昇降して居た。停車場から宿屋まで、僅か一町足らずの間に、夜風の冷に頤を埋めた首巻が、呼気の湿気で真白に凍つた。翌朝目を覚ました時は、雨戸の隙を潜つて空寒く障子を染めた暁の光の中に、石油だけは流石に凍らぬと見えて、心を細めて置いた吊洋燈が昨夜の儘に薄りと点つて居たが、茶を注いで飲まずに置いた茶碗が二つに割れて、中高に盛り上つた黄色の氷が傍に転げ出して居た。火鉢に火が入つて、少しは室の暖まるまでと、身体を縮めて床の中で待つて居たが、寒国の人は総じて朝寝をする、漸々女中の入つて来たのは、ものの一時間半も経つてからで、起きて顔を洗ひに行かうと、何気なしに取上げた銀鍍金の石鹸函は指に氷着く、廊下の舗板が足を移す毎にキシ/\と鳴く、熱過ぎる程の湯は、顔を洗つて了ふまでに夏の川水位に冷えた。

「菊池君」石川啄木(青空文庫)

末尾部(原文より)

『そら然うでせう。アノ顔で以て不正直と来た日にや、怎もなりませんからね。』 と云つて、小松君は暫らく語を切つたが、 『さう/\、「毎日」の菊池ですね。』 『。』 『アノ男は怖い様な顔してるけれど正直ですな。』 『怎して?』 『昨晩矢張琵琶会に来てましたがね。』 〔生前未発表・明治四十一年五月稿〕

「菊池君」石川啄木(青空文庫)

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