川(岡本かの子)のあらすじ・登場人物
耳のほとりを流れる川
- 文字数
- 8,370字
- 読了目安
- 約17分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
この作品について
岡本かの子の短篇。「かの女の耳のほとりに川が一筋流れてゐる」という印象的な冒頭で始まり、川魚を勧められた娘の心の動きを描く。小さな魚の愛らしさと食欲、母性への憧れが重なり、官能的な川の幻想に広がっていく。
あらすじ
かの女の耳のほとりには川が一筋流れている。まだ嘘をついたことのない白歯のいろのさざ波を立てて、星や月を浮かべ、朝は蕭条とした色で、冬は寒風に晒される。場面は変わり、直助という召使が、川上・川下を回って小さな魚を買い集め、つけ焼にして、かの女に勧める。白鮠、石斑魚、岩魚、川鯊などは、小指ほどの大きさで愛らしい。かの女は生臭いものを嫌がるが、小さくて可愛いものに惹かれる本能が食欲に変わり、魚を口にしてゆく。結びでは、かの女が再び自分の耳のほとりの川の意義に探り入らなければならないと考える。
冒頭部(原文より)
かの女の耳のほとりに川が一筋流れてゐる。まだ嘘をついたことのない白歯のいろのさざ波を立てゝ、かの女の耳のほとりに一筋の川が流れてゐる。星が、白梅の花を浮かせた様に、或夜はそのさざ波に落ちるのである。月が悲しげに砕けて捲かれる。或る夜はまた、もの思はしげに青みがかつた白い小石が、薄月夜の川底にずつと姿をひそめてゐるのが覗かれる。
「川」岡本かの子(青空文庫)
末尾部(原文より)
かの女は朝覚めて胸の中でいふ。直助よ。お前はとつくに死んでゐるのだ。それだのに昨夜また私の夢の中に見えて、猟人の姿をし、何処までお前は川のほとりを歩いて行つたのだ……。何をおまへはまだ探してゐるのだ。 川は墓でもなかつたのか 川のほとりでのみ相逢へる男女がある。 かの女の耳のほとりに川が一筋流れてゐる。未だ、嘘をついたことのない白歯のいろのさざ波を立てゝ―― かの女は、なほもこの川の意義に探り入らなければならない。
「川」岡本かの子(青空文庫)
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