生々流転(岡本かの子)のあらすじ・登場人物
川の流れのような女の遍歴
- 心理
- 文字数
- 297,447字
- 読了目安
- 約9時間55分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
岡本かの子の長篇小説。一人の女「わたくし」の遍歴を、川の流れのように語る。都会を逃れ、さまざまな男や人々と出会いながら、最後には海の女船乗りとなる。仏教的な流転の思想と、女性の自立への願いを抱いた、晩年の代表作のひとつ。
あらすじ
「遁れて都を出ました」と、語り手のわたくしは始める。鉄道線路のガードの下をくぐり、橋を渡るとき、振り払うようにして来た男の腕の感触が少しずつ軽くなってゆく。泥の匂いと蛙の声の中を一筋の道に出て、自分で自分の体重を支える妙な気だるさを感じる。以後、池上や嘉六ら、さまざまな人物と出会い、家や結婚という枠に縛られながらも、そこから逃れようとする女の姿が描かれる。農村や劇場のある町でも、風変わりな人々との交流が重なる。結びでは、文吉との幼い日の会話を思い出し、墓場のない世界として海を選び、女船乗りになったと語る。
冒頭部(原文より)
遁れて都を出ました。鉄道線路のガードの下を潜り橋を渡りました。わたくしは尚それまで、振り払うようにして来たわたくしの袂の端を掴む二本の重い男の腕を感じておりましたが、ガードを抜けて急に泥のにおいのする水っぽい闇に向き合うころからその袂はだん/\軽くなりました。代りに自分で自分の体重を支えなくてはならない妙な気怠るさを感じ出しました。これが物事に醒めるとか冷静になったとかいうことでしょうか。
「生々流転」岡本かの子(青空文庫)
末尾部(原文より)
わたしは、はたとつまりながら「さあ」と言っただけでいると、わたくしに関わず文吉はひとり諾き顔で言いました。 「うん、そうだ。海にお墓なんか無いんだね」 墓場のない世界――わたくしが川より海が好きになって女船乗りになったのはそれからです。
「生々流転」岡本かの子(青空文庫)
名文
遁れて都を出ました。鉄道線路のガードの下を潜り橋を渡りました。
岡本かの子『生々流転』の冒頭。男の腕を振り払って都を逃れた「わたくし」が、闇の中で自分の足で立つ孤独を覚える。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。