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渾沌未分(岡本かの子)のあらすじ・登場人物

水の中の少女の恋

  • 恋愛

岡本かの子 

文字数
16,233字
読了目安
約32分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

岡本かの子の短篇。水泳場の若い女教師小初を主人公に、恋愛とも友情ともつかぬ未分化な若い男女の関係を描く。かの子の描く肉感的な女性像が、大胆な筆致で表れる。

あらすじ

小初は跳び込み台の櫓の上に立ち、腕を額にかざして空を見回す。腕は日焼けしてココア色で、天女型の美貌に尻下がりの大きな眼が少し野獣じみて光る。水泳場の先生として、父の灯を背に、貝原という男と夜に抜け出し、清洲橋を渡って人形町で冷し白玉を食べ、下町の踊り場を回る。貝原は何の衝動も見せず、小初を一風変わった娘と受け止めている。ふたりの間に恋とも友情ともつかない関係が続き、結びでは、風と雨が激しい海の真ん中で、小初が涙を流しながら、波に向かって抜き手を切って行く場面が描かれる。

冒頭部(原文より)

 小初は、跳ね込み台の櫓の上板に立ち上った。腕を額に翳して、空の雲気を見廻した。軽く矩形に擡げた右の上側はココア色に日焦けしている。腕の裏側から脇の下へかけては、さかなの背と腹との関係のように、急に白く柔くなって、何代も都会の土に住み一性分の水を呑んで系図を保った人間だけが持つ冴えて緻密な凄みと執拗な鞣性を含んでいる。やや下ぶくれで唇が小さく咲いて出たような天女型の美貌だが、額にかざした腕の陰影が顔の上半をかげらせ大きな尻下りの眼が少し野獣じみて光った。

「渾沌未分」岡本かの子(青空文庫)

末尾部(原文より)

 風の加った雨脚の激しい海の真只中だ。もはや、小初の背後の波間には追って来る一人の男の姿も見えない。灰色の恍惚からあふれ出る涙をぼろぼろこぼしながら、小初はどこまでもどこまでも白濁無限の波に向って抜き手を切って行くのであった。 (昭和十一年九月)

「渾沌未分」岡本かの子(青空文庫)

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