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巴里祭(岡本かの子)のあらすじ・登場人物

パリの外国人たちの夏

岡本かの子 

文字数
30,397字
読了目安
約1時間1分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

岡本かの子のパリ滞在体験を背景にした短篇。パリで追放人のように暮らす外国人たちの中で、日本人の青年新吉が、年上の夫人との交際や、巴里の気風に触れる。かの子の洋行体験が反映された作品群の一つ。

あらすじ

パリに何年も滞在している外国人たちは、自らを「追放人」と呼ぶ。六月三十日より前にパリを去るのも阿呆、六月三十日より後に居残るのも阿呆、というのが彼らの諺である。主人公の新吉は、夫人の冗談めかした病的な関心を受けながら、昨夜の飲みすぎで重い眠りに沈む。朝は通いの女中が蓄音器でイタリアの牧歌をかけ、濃いキャフェの匂いに目を覚ます。夫人の誘いや、パリの女たちの優しさ、淋しさに触れながら、新吉は、パリが人々を導くのは、人生の底の底まで徹した現実世界かもしれないと、感じ始める。

冒頭部(原文より)

 彼等自らうら淋しく追放人といっている巴里幾年もの滞在外国人がある。初めはラテン区が彼等の巣窟だったが、次にモンマルトルに移り、今ではモンパルナッスが中心地となっている。 ――六月三十日より前に巴里を去るのも阿呆、六月三十日より後に巴里に居残るのも阿呆。」

「巴里祭」岡本かの子(青空文庫)

末尾部(原文より)

 黙って河に向いて居た新吉の眼から、いつか涙が湧いて頬を流れて居た。新吉は其の涙がセーヌ河の底まで落ちて浸み入るように思えた。新吉は其の涙があの病的天才服飾家の老美女ベッシェール夫人の為めに流れた涙であるのを暫らく後に意識した。だが涙が新吉の頬から乾いてセーヌの河風が一しきり涼しく吹き渡る頃、新吉の心はしんと確かな底明るさに静まった。新吉はおもむろに内心で考え始めたのであった――巴里はあらゆる刺戟を用いて一旦人の心を現実世界から遊離させる。極端なニヒリストにもする。しかし其の過程の後に巴里が人々を導く処は、人生の底の底まで徹底した現実世界、または真味な生活境ではなかろうか。フェルナンドが「巴里の山河性」と言ったのは其処なんだな、俺もどうやら人生の本当の味を、これから巴里に落ち付いて、味って行けるようになるらしいぞ――。」

「巴里祭」岡本かの子(青空文庫)

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