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奇怪な客(正宗白鳥)のあらすじ・登場人物

覆面の客と人生の怪奇

正宗白鳥 1928年(昭和3年)6月 「サンデー毎日」

文字数
4,557字
読了目安
約9分
表記
旧字旧仮名
種別
随筆
舞台
  • 東京都

この作品について

1928年(昭和3年)6月、『サンデー毎日』に発表された正宗白鳥の小品。ある人から聞いた、ホテルに泊まった覆面の客の話から始まる。待合を通して泊まりを頼み、帽子とマスクで顔を隠したまま部屋に閉じこもり、ホテルの食事には手をつけない――そんな客に手を焼く従業員たちの様子が、語り手の聞き書きとして生き生きと語られる。話はそこから谷崎潤一郎の小説への連想、英国で近刊の怪奇小説集の一篇の紹介へと広がり、やがて「私」自身の幼い頃の記憶へと移っていく。怪奇とされるものと平凡な日常との境目を、五十年を生きてきた作家の目で見直した文章で、末尾の幼時の記憶は随筆「幼少の思ひ出」にも書かれている。

あらすじ

語り手はある人から、ホテルに来た奇妙な客の話を聞く。築地の待合から、名を明かさない客を泊めてくれと電話があり、ホテルは断るつもりでいたが、夜勤の者がうっかり泊めてしまう。帽子を深くかぶりマスクで顔を覆った客は、部屋に鍵をかけて誰にも顔を見せず、ホテルの食事は取らずにチョコレートと蜜柑で過ごし、新しい肌着を毎日のように捨てていた。宿料が尽きた頃、事務員が立ち退きを迫ると、客は顔が長く口が臭いから隠しているのだと言い訳し、小石川の自宅へ電話をかけて身元を示した。ボーイの説では、客は婦人らしいという。語り手は谷崎潤一郎の小説の人物を連想するが、やがて、ひとりでホテルに暮らしたい女の気持ちには同感こそすれ、さほど怪奇とは思わなくなる。英国の怪奇小説で、妻のミイラと会食させた若者を次々に殺してきた男の話を読んでも、異性への執念は日常に見飽きていて珍しくない。見ようによっては日常もまた怪奇である。語り手の最初の記憶は、祖父の妾の家で甘いものを食べさせられて祖母の怒りを買い、雨戸の外へ出されて泣き叫んだこと。もう一つは、近所の醜い漁夫が妻や娘を下駄で殴っていた光景で、後に聞けば彼は好人物で、妻や娘が留守中に情夫を引き入れていたのだという。この二つの事件から人生の門に入った語り手には、以来五十年、怪奇と思えば怪奇に見えるものばかりなのだった。

登場人物

冒頭部(原文より)

 こんな珍しい話がありますよ。  あるホテルであつたことですがね。ある晩、そのホテルの帳場へ、築地の吉田といふ待合から電話が掛つて、「今夜わたしとこのお客がそちらへ行くから、泊めてくれないか。」といふんです。「何といふ方だ。」ときくと、名前は今いへないといふ返事なので、それぢや困ると、ホテルでは一先づ斷つたのでした。

「奇怪な客」正宗白鳥(青空文庫)

末尾部(原文より)

 この二つの事件は、私の幼な心に最もつよく印象された。私は先づこの二つの事件に會つて、それから人生の門へ入つたやうに思はれる。……爾來五十年、人生のこと、右を見ても左を見ても、怪奇と思つて見れば、さう思はれるものばかりだ。

「奇怪な客」正宗白鳥(青空文庫)

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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