新婚旅行(正宗白鳥)のあらすじ・登場人物
箱根と伊香保ふたつの旅
- 心理
- 文字数
- 6,510字
- 読了目安
- 約13分
- 表記
- 旧字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 神奈川県
- 群馬県
この作品について
1926年(大正15年)1月、『中央公論』に発表された正宗白鳥の短編。「新婚旅行」と「カルモチン」の二つの章から成る。前半は紅葉の美しい晩秋の箱根で、若い男女が登山電車に乗り、景色や化粧の話を穏やかに交わすところから始まる。関東大震災の爪痕からの復旧を目にしながら、二人は酒と煙草のにおいを持ち込んだ乗客たちと車内で行き違う。後半は九月末、神経を病んだ体格の大きな若い女が、兄夫婦の家を離れ、幼い妹を連れて伊香保の温泉宿へ保養に出る。眠れない夜の物音、田舎訛りの宴会、妹を相手のひとり語り。二つの旅の情景を並べ、他人の目に映る男女の姿と、旅先で膨らんでいく心の内とを描き分けている。
あらすじ
晩秋の箱根。宮ノ下から登山電車に乗った若い男女は、宮城野や湖水、大涌谷の印象を語り合い、来月は外国航路の汽船で神戸へ行こうと話す。男は二年前の震災直後の惨状を思い出し、早い復旧に感じ入る。塔ノ沢で酒臭い客たちが乗り込み、煙草の煙に女が咳をすると、男は窓を開け、閉めてくれと頼まれても「みんなが煙草を止めたら締めてもいい」と突っぱねる。小田原で降りた二人は熱海行きの汽車に乗り、客たちは新婚旅行か、カフェー女かと陰で噂し合った。――九月末、神経衰弱に悩む大柄な女が、十歳ほどの妹とく子を連れて伊香保へ保養に来る。上野駅で兄はすぐに帰ってしまい、渋川からの電車では席も譲られず、宿では物音に脅えて眠れない。翌日、田舎訛りの宴会の声を聞き、按摩を呼んでも気は晴れず、彼女は饅頭を頬張る妹を相手に、西洋へ渡ってパリでダンスを習いたい、映画女優になって自分を軽んじた人々を見返したい、奇麗な心になりたいと延々と語る。女中に睡眠薬のカルモチンを頼むと「奥様」と呼ばれ、妙な刺激を受ける。その夜も妹に胸の内を打ち明けて涙さえこぼした彼女は、妹が眠るとカルモチンを定量どおり飲み、兄夫婦へ、妹が寂しがるので二、三日うちに帰るかもしれないと絵葉書を書いた。そして隣室のおとなしい客に心強さを感じながら床に就いた。
登場人物
- 男 箱根を旅する痩せた青年。車内の窓をめぐって乗客に譲らない
- 女 男の連れの小柄な若い女
- 彼女 伊香保へ保養に来た大柄な女。神経衰弱に悩む
- とく子 彼女の妹。十歳になるやならず
冒頭部(原文より)
新婚旅行 例年の如く、晩秋のこの頃は、黄ろい葉や紅い葉で色取られて、箱根の山は美しい。この山に限らない、何處の山でも何處の田舍でも、秋は美しいに違ひない。 晴れ切つた、風のない空に、烏が幾羽も浮んでゐる。 山中でも温かい日盛りの午後の二時頃。
「新婚旅行」正宗白鳥(青空文庫)
末尾部(原文より)
今夜は幸ひに、隣室に一組のおとなしい客が泊つてゐるので、彼女は氣丈夫な思ひをして、晝間から敷きつ放しの寢床に就いた。
「新婚旅行」正宗白鳥(青空文庫)
原文を読む
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