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レオナルド・ダ・ヴインチの手記(レオナルド・ダ・ヴィンチ)のあらすじ・登場人物

芥川が訳した万能の天才の箴言

  • 翻訳

レオナルド・ダ・ヴィンチ 訳者 芥川龍之介 

文字数
888字
読了目安
約2分
表記
旧字旧仮名
種別
随筆

この作品について

レオナルド・ダ・ヴィンチが手稿に書き残した言葉から、芥川龍之介が十一の断章を選んで訳したもの。末尾に「抄譯」とあり、「大正三年頃」と記されている。芥川が東京帝国大学に在学し、作家として世に出る前の時期の訳業である。神への祈り、古人に学ぶことの価値、生のうちで滅びる美と芸術のうちで滅びない美、よく生きることとよく死ぬこと、すべてを滅ぼす「時」への呼びかけ、理論が手腕に先走ることの戒めなど、短い箴言が星印で区切られて並ぶ。漢語を多く用いた文語調の訳文で、のちの『侏儒の言葉』を思わせる警句の形をとっている。

あらすじ

星印で区切られた十一の断章から成る。最初は、神はすべての善きものを労力という代価で人間に売り与えた、という祈りの言葉である。続いて、古人を模倣することは今の人を模倣するより賞賛に値すること、「生」において美は滅びるが「芸術」においては滅びないこと、感情の至上の力があるところに最大の殉教者がいることが述べられる。最も長い断章では、新しい春や年の訪れを待ち焦がれる人間の憧れを、光に飛び込む蛾になぞらえ、それが実は自らの滅びへの憧れでありながら、自然の精髄でもあると説く。さらに、よく費やされた日が幸福な眠りをもたらすように、よく用いられた生は幸福な死をもたらすこと、いかに生きるべきかを学んでいるつもりで実はいかに死ぬべきかを学んでいたこと、使わない鉄や溜り水のように怠惰は心の活力を奪うことが語られる。老いた顔を鏡に見て泣くヘレネーを引いて、すべてを滅ぼす「時」に呼びかける断章、木は自らを焼く火の燃料となるという断章を経て、最大の不幸は理論が手腕を超えたときである、という言葉で終わる。

冒頭部(原文より)

         *  おお、神よ。爾は、一切の善きものを、勞力の價を以て、我等に賣り給へり。          *  古人を模倣する事は、今人を模倣する事より、賞贊に値する。          * 「生」に於て、「美」は死滅する。が、「藝術」に於ては、死滅しない。

「レオナルド・ダ・ヴインチの手記」レオナルド・ダ・ヴィンチ(青空文庫)

末尾部(原文より)

         *  おお「時」よ。一切を滅却する爾よ。おお嫉みふかき時代よ。爾は、年の鋭き齒牙を以て、徐なる死に、一切を破壞し、一切を併呑する。ヘレンは、老年が面上に刻した皺を、鏡中の影に認めた時、泣いて、何故に彼女が二度までも誘拐し去られたかを怪んだ。  おお「時」よ。一切を滅却する爾よ。おお一切を滅却する嫉みふかき時代よ。          *  木は、木を滅する火の燃料となる。          *  最大の不幸は、理論が手腕を超過した時である。

「レオナルド・ダ・ヴインチの手記」レオナルド・ダ・ヴィンチ(青空文庫)

名文

善く費された日が、幸福な眠を齎すやうに、善く用ひられた生は、幸福な死を將來する。

ダ・ヴィンチの手稿の言葉を芥川龍之介が訳した断章のひとつ。一日の充実と一生の充実を重ねる、簡潔で美しい対句。

自分が、如何に生く可きかを學んでゐたと思つてゐる間に、自分は、如何に死す可きかを學んでゐたのである。

生き方を学ぶことがそのまま死に方を学ぶことだったと気づく断章。芥川の格調ある訳文が、ダ・ヴィンチの省察を際立たせる。

最大の不幸は、理論が手腕を超過した時である。

抄訳の最後に置かれた一句。理屈が腕前を追い越すことを戒める言葉で、画家であり技術者でもあったダ・ヴィンチらしさがうかがえる。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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