鮪に鰯(山之口貘)のあらすじ・登場人物
貧しさも戦争もユーモアに包んで
- 文字数
- 25,390字
- 読了目安
- 約51分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
山之口貘が生前最後にまとめた詩集の題。表題作は、鮪と鰯を並べた食卓から、原水爆の恐怖や世相をユーモラスに歌う。貧乏と沖縄、ことば、日常のおかしみを平明な口語で詠む作者の後期の作を収める。底本は一九六四年の『山之口貘詩集 鮪に鰯』。
あらすじ
口語で書かれた平明な詩が並ぶ。冒頭の「野次馬」は、食うのがやっとの家にテレビがあるのを見た来訪者が、貰ったのか買ったのかと詮索するのに、作者が腹を立てる話である。「ひそかな対決」では、原稿用紙を何百枚も屑にする詩人はぱあではないかと、ある医学博士が言ったという噂が語られる。「弾を浴びた島」は沖縄を訪ねた帰郷の場面で、島の人々とのやりとりに戦争の傷あとが滲む。表題作「鮪に鰯」は、食卓の鰯と、原水爆に脅かされる鮪とを重ね、地球の上はみんな鮪だと言って、ビキニの灰を火鉢の灰と取りなす妻の場面で結ばれる。笑いのなかに生活の苦さと時代への批評が同居する詩集である。
冒頭部(原文より)
野次馬 これはおどろいたこの家にも テレビがあったのかいと来たのだが 食うのがやっとの家にだって テレビはあって結構じゃないかと言うと 貰ったのかいそれとも 買ったのかいと首をかしげるのだ どちらにしても勝手じゃないかと言うと
「鮪に鰯」山之口貘(青空文庫)
末尾部(原文より)
大空はむろん たったひとりの人間の舌の端っこでも 血らは既に血を争っていた 斉藤さんは誰に訊かれても決して ごじぶんの生れた国を言わなかった 言うには言うが 眉間のあたりに皺などよせて 九州です と発音した
「鮪に鰯」山之口貘(青空文庫)
名文
鮪の刺身を食いたくなったと 人間みたいなことを女房が言った 言われてみるとついぼくも人間めいて 鮪の刺身を夢みかけるのだが
山之口貘「鮪に鰯」の書き出し。鮪の刺身すら「人間みたいなこと」と言うほどの貧しい暮らしを、とぼけた口調で語る。詩は水爆実験の灰をかぶった魚へと進み、ユーモアの奥から時代への怒りが顔を出す。
原文を読む
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