松の葉(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
根岸の団子屋に集う人情
- 文字数
- 7,709字
- 読了目安
- 約15分
- 表記
- 旧字旧仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
泉鏡花が明治43年(1910)1月に発表した小品。根岸の名物の団子を土産に買おうと出かけた「私」が、団子屋の店先で目にした小さな出来事を、昔ながらの江戸風の言い回しでいきいきと綴る。威勢のいい団子焼きの小僧、親子連れ、行者姿の翁など、市井の人々の描写が見どころ。
あらすじ
(内容の要旨)親類の娘たちへの土産にしようと、根岸の相坂の団子屋を目指した「私」は、昼の酒でほろ酔いのまま、途中で貸家を覗いたり名物の煮山椒を目にしたりしながら歩いていく。着いた団子屋の店先では、威勢よく団扇で団子を焼く小僧が、客の注文にいつも「お手間が取れます」と応じている。居合わせた品のよい母子連れや、使いの小さな少女、そこへ杖と鈴を手にした老いた行者が通りかかり、お布施を乞う。少女は自分の買った焼き団子を老人に分けてやり、それを見た人々もそれぞれに心づけを渡す。思いがけない情けに触れた翁は、実は自分は生計のために行者の格好をしているだけの偽者だったと打ち明けるが、人の情に打たれ、あらためて成田山へ詣でて皆の幸せを祈ると誓って去っていく。
冒頭部(原文より)
「團子が貰ひたいね、」 と根岸の相坂の團子屋の屋臺へ立つた。……其の近所に用達があつた歸りがけ、時分時だつたから、笹の雪へ入つて、午飯を濟ますと、腹は出來たし、一合の酒が好く利いて、ふら/\する。……今日は歸りがけに西片町の親類へ一寸寄らう。坂本から電車にしようと、一度、お行の松の方へ歩行きかけたが。――一度蕉園さんが住んで居た、おまじなひ横町へ入らうとする、小さな道具屋の店に、火鉢、塗箱、茶碗、花活、盆、鬱金の切の上に古い茶碗、柱にふツさりと白い拂子などの掛つた中に、掛字が四五幅。大分古いのがあるのを視た、――こゝ等には一組ぐらゐありさうな――草雙紙でない、と思ひながら、フト考へたのは此の相坂の團子である。――これから出掛ける西片町には、友染のふつくりした、人形のやうな女の兒が二人ある、それへ土産にと思つた。
「松の葉」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
「私は行者でも何でもないのぢや。近頃まで、梅暮里の溝へ出て、間に合せの易を遣つて居ましたが、好きなどぶろくのたしにも成らんで、思ひついた擬行者ぢや。信心も何もなかつたが、なあ、揃ひも揃つた、あなたがたのお情――あの娘も聞かつしやれ。」 と小姉に差出した手がふるへて、 「老人つく/″\身に染みて、此のまゝでは、よう何うも、あの蹈切が越切れなんだ。―― あらためて、是から直ぐに、此の杖のなり行脚をして、成田山へ詣でましてな。……經一口も知らぬけれども、一念に變りはない。南無成田山不動明王、と偏に唱へて、あなた方の御運長久、無事そくさい、又お若い孃たちの、」 とほろりとして、老の目に涙を湛へ、 「行末の御良縁を祈願します、祈願しまする。」
「松の葉」泉鏡花(青空文庫)
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