みだれ髪(与謝野晶子)のあらすじ・登場人物
恋と官能を高らかに歌う歌集
- 文字数
- 10,711字
- 読了目安
- 約21分
- 表記
- 新字旧仮名
- 舞台
- 京都府
この作品について
1901年(明治34年)8月に刊行された与謝野晶子の第一歌集。「臙脂紫」「蓮の花船」「白百合」「はたち妻」「舞姫」「春思」の六章に399首を収める。恋の高揚やためらい、若さへの誇りを、髪や肌、花、衣の色と結びつけて歌う。京都の寺や川辺を思わせる地名のそばに、神や小羊などの像が現れ、目に見える風景と空想の世界が重なっている。古典的な言葉を使いながら、相手に呼びかけ、求め、問い返す声が前に出る歌風が特徴だ。装幀と挿絵は洋画家の藤島武二による。巻頭には、表紙の輪郭を恋愛の矢がハートを射る意匠とし、そこから吹き出す花を詩に見立てた説明も置かれている。歌の色彩や身体の感覚を、造本の美しさとともに味わえる一冊である。個々の歌を作者の恋愛の記録と一対一に結びつけず、さまざまな声や情景として読むこともできる。
あらすじ
「臙脂紫」「蓮の花船」「白百合」「はたち妻」「舞姫」「春思」の六章からなる本集は、京都・堺を舞台に、若い女性の恋と青春の情熱を大胆な言葉で歌い上げる。「その子二十櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな」と若さと美しさを謳う歌にはじまり、「君」「神」などと呼びかける恋の高揚と苦悩、京都・嵯峨野や加茂川の情景、姉と慕った友との別れなどが、情熱的な調べで綴られてゆく。「やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君」など、女性の肉体と情念を臆せず詠んだ歌の数々は、旧套な倫理観へのしなやかな抵抗として、当時の読者に鮮烈な印象を残した。
冒頭部(原文より)
臙脂紫 夜の帳にささめき尽きし星の今を下界の人の鬢のほつれよ 歌にきけな誰れ野の花に紅き否むおもむきあるかな春罪もつ子 髪五尺ときなば水にやはらかき少女ごころは秘めて放たじ
「みだれ髪」与謝野晶子(青空文庫)
末尾部(原文より)
消えて凝りて石と成らむの白桔梗秋の野生の趣味さて問ふな 歌の手に葡萄をぬすむ子の髪のやはらかいかな虹のあさあけ そと秘めし春のゆふべのちさき夢はぐれさせつる十三絃よ
「みだれ髪」与謝野晶子(青空文庫)
名文
やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君
若い肌のぬくもりを知らぬまま道徳を説く相手へ投げかけた一首。旧来の倫理に真正面から挑んだ、明星派の情熱を象徴する歌。
その子二十櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな
二十歳の娘の、櫛を通せば流れるような黒髪に誇らしい青春の美しさを見る歌。若さと自らの美を大胆に肯定する、『みだれ髪』を代表する一首。
清水へ祇園をよぎる桜月夜こよひ逢ふ人みなうつくしき
桜の咲く月夜、京都の祇園を抜けて清水へ向かう道すがらを詠む歌。恋の喜びに満ちた心には、すれ違う人すべてが美しく見える。
なにとなく君に待たるるここちして出でし花野の夕月夜かな
『みだれ髪』の一首。なんとなくあなたに待たれている気がして出てみた花野に、夕月がかかっている。恋の予感を秋の野の情景に溶かし込んだ、晶子の代表歌の一つ。
春三月柱おかぬ琴に音たてぬふれしそぞろの宵の乱れ髪
歌集の題名にもつながる「乱れ髪」を詠み込んだ一首。琴柱を立てていない琴が、ふと触れた乱れ髪に鳴る——春の宵のなまめかしさを、音の感触で描く。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。