脱帽(斎藤茂吉)のあらすじ・登場人物
ウィーンの寺院での誤解
- 文字数
- 1,519字
- 読了目安
- 約3分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
斎藤茂吉がウィーン留学中に経験した出来事を綴った短い随筆。古書を抱えて聖ステファン寺院に入ったとき、見知らぬ男に帽子を取られ、思わず怒りが湧く。しかし、その出来事の意外な顛末が最後に待っている。
あらすじ
五月を過ぎたころ、体に汗がにじみ始める。途中で買った医学の古書を両脇に抱え、筆者はウィーンのシュテファン寺院に入った。疲れた体を休めるつもりで、向こうの祷卓のところまで行ってから帽子を脱ごうと思っていると、ひとりの男がつかつかと来て「帽子をおとりなさい」と言い、帽子を床に落とした。筆者は書物を卓に置き、怒りがむらむらと起こる。やがて静まって席に腰かけようとすると、前から別の男が来て、帽子をかぶるようにと言う。その殿堂では脱帽せずにかぶるのが習わしだと、隣人が教えてくれる。
冒頭部(原文より)
一 もうそろそろ体に汗のにじみ出るころであつたから、五月を過ぎてゐたとおもふ。途中で買つた医学の古書をば重々と両脇にかかへて、維也納のシユテフアン寺のなかに入つて行つた。それは疲れた体を休め、汗をも収めるつもりであつたのだが、両脇に書物の包をかかへてゐるために、向うの祷卓のところまで行つて、それから帽子を脱がうとおもひ、寺の中のうすぐらい陰気な石の床上を歩いて行つた。いまだ卓までは十数歩もあらうかとおもはれたころに、ひとりの男がつかつかと来て、『帽子をおとりなさい』といふ刹那に僕の帽子をば床上におとした。
「脱帽」斎藤茂吉(青空文庫)
末尾部(原文より)
僕は、つつましやかに、脱帽し、あいて居た席に腰かけて、気を落付かせようとした刹那に、前の方から一人の男がつかつかと来て、『どうぞ帽子をおかぶり下さい』と云つた。 僕は、驚いたが、左様した。恐らくはたで見たら、僕の顔が赤くなつてゐたに相違ない。 この殿堂内では、脱帽しないで、帽子をかぶるものだといふことを隣人が話してくれた。
「脱帽」斎藤茂吉(青空文庫)
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