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寂しき魚(室生犀星)のあらすじ・登場人物

沼の底で光を恋う老いた魚

室生犀星 1920年(大正9年)12月 「赤い鳥」

文字数
4,800字
読了目安
約10分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

1920年(大正9年)12月、鈴木三重吉主宰の児童雑誌「赤い鳥」に発表された室生犀星の童話。古い沼にすむ一匹の老いた魚が、沼を覆う空のさらに向こうにあるはずの明るい世界を思い続ける。岩波文庫『日本児童文学名作集』にも収められた。水と夜の静けさを描く詩人らしい文体に特徴がある。

あらすじ

舞台は、川尻からつづく古い沼である。いつからあるのか誰も知らず、涸れも減りもせず、水は静まりきっている。その岸の葦の暗がりに、一匹のたいそう古い魚が、鱗に水苔を生やして水面すれすれにじっと浮かんでいる。ほかの鯉や鮒、鯰は、昼は魚巣にひそみ、夜になると水と空気の境目まで浮かび上がって月や星や草木のささやきを知り、仲間だけの世界で遊ぶ。古い魚だけは夜も底へ下りず、月や星の光に打たれるときだけ、喜ばしそうにからだを動かす。沼から三里ほど離れた大きな都会の電燈の余映がほのかに水の上に届き、魚はそれをなつかしがって、明るく賑やかなところはどこにあるのか、なぜ自分には見ることが許されないのかと考える。末尾では、長く生き過ぎた魚の姿が静かな水の上に浮かんだまま、幾年も考え通した地の上のものを何ひとつ探り得ないまま、安らかな死がおとずれる。

冒頭部(原文より)

 それは古い沼で、川尻からつづいて蒼くどんよりとしていた上に、葦やよしがところどころに暗いまでに繁っていました。沼の水はときどき静かな波を風のまにまに湛えるほかは、しんとして、きみのわるいほど静まりきっていました。ただ、おりおり、岸の葦のしげみに川蝦が、その長い髭を水の上まで出して跳ねるばかりでした。

「寂しき魚」室生犀星(青空文庫)

末尾部(原文より)

 かれがそう考えているうちに、白い腹がすこしも脈をうたなくなりだしたのです。それはあまりに長く生き過ぎた老魚としての、どっしりした姿が水彫りにされたまま、しんとした水の上に今は全きまでに浮きあがったのでした。  けれども、かれは幾年かの間考え通した地の上のものを、何一つとしてさぐることができなかったのでした。  ただ安らかな死がかれのところにきただけなのでした。

「寂しき魚」室生犀星(青空文庫)

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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