長塚節歌集(長塚節)のあらすじ・登場人物
子規門下の澄んだ写生歌
- 文字数
- 29,166字
- 読了目安
- 約58分
- 表記
- 旧字旧仮名
この作品について
長塚節の短歌を、年代順にまとめた歌集(上巻)。1898年(明治31)から、根岸短歌会で正岡子規に学んだ時期の作を中心に、題詠や旅の歌、郷里茨城の風物を詠んだ歌が並ぶ。写生を基調とした素直で清澄な調べが特徴で、『土』の作者の歌人としての出発を示す。
あらすじ
巻頭は「明治三十一年」の項で、暮春雨、春哀傷、海辺鴴などの題による歌が置かれる。「昨日こそうしほあみしか大磯のいそふく風に千鳥なくなり」のように、題詠の形式のなかにも実景の観察がある。明治三十二年には、元旦、菖蒲、避暑、秋郊虫、時雨、初雪と季節を追い、「萩こえし垣をまがりて右にをれて根岸すぐればむしぞなくなる」など、根岸の町を歩く実感が詠まれる。明治三十三年には「森」「雪中梅」などの題が続く。年ごとの題と歌が積み重なり、歌風の成長を追うことができる。
冒頭部(原文より)
明治三十一年 暮春雨 惜しまるゝ花のこずゑもこの雨の晴れてののちや若葉なるらむ 春哀傷 林子を悼みて ちりしみのうらみや深きみし人のなげきやおほきあたらこの花 海邊鵆 昨日こそうしほあみしか大磯のいそふく風に千鳥なくなり
「長塚節歌集」長塚節(青空文庫)
末尾部(原文より)
よねをしね石田刈り干す、片庭の山裾村ゆ、下つ毛にこゆるみ坂の、たむけぢの佛の山に、去にし邊にありけることゝ、耳たえず我聞くことの、麓べに住みける人の、弓箭もち日にけに行けど、ほろゝ啼く雉子も射ず、萱わくる猪も射ずして、人くやと潛めるみちに、ちちのみの父が待つ子も、柞葉の母が待つ子も、たひらけく命全けく、こえ果つることもあらぬを、藁蓆しけこき小屋に、橿の實の獨りもり居る、處女子の藍染衣の、染糸のさめはつるまでに、うち嘆き訴へいへども、返り見る心もあらねば、眞悲しみ思ひ定めて、世の人のなげかふことを、我だにも死にてありせば、留む可きこともあらむと、父が行く佛の山を、草枕旅行く如く、たどり行き臥やせる時に、盜人に在りける父や、黄金にも玉にもまして、惜みける己が眞名子を、かゝらむと思ひもかけねば、叫びをらび心も空に、負征矢の碎るまでに、櫨弓の弦たつまでに、掻きなげく思ひつのりに、後つひに心おこして、建てにける佛の石の、朽ち果てぬためしの如く、うつそみのいまの世にして、この山を過ぎ行く人の、うれたみと聞きつぎゆけば、天地のながく久しく、かたり竭きめやも、 短歌 劔太刀しが心より痛矢串おのが眞名子の胸に立てつる
「長塚節歌集」長塚節(青空文庫)
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