芋掘り(長塚節)のあらすじ・登場人物
小春日和、岡の畑の一日
- 心理
- 文字数
- 23,881字
- 読了目安
- 約48分
- 表記
- 旧字旧仮名
- 種別
- 小説
この作品について
長塚節が1908年(明治41)前後に書いた短編で、『ホトトギス』に載った。小春日和の昼、岡の畑で芋を掘る百姓夫婦の一日を描く。書き出しは人物ではなく風景で、田、櫟林、鬼怒川の土手、のぼる白帆、筑波山とその頂の観測所までが順に目に入る。稲を掛けた竹の「オダ」が残る晩秋の田のようすなど、物の位置関係を追うような描写が続き、写生文と呼ばれる作者の書き方がよくわかる。
あらすじ
晩秋の小春日和、鬼怒川と櫟林に囲まれた岡の畑では、百姓たちが芋掘りに精を出している。兼次は鍬で芋の株を掘り起こし、妻のおすがは莖を切り、掘り出した土の塊をほぐして子芋を俵に詰めてゆく。遠くには雪を戴いた両毛の山々や筑波山が霞み、筑波の観測所のガラス窓が日を反射してきらめく。畑を行き交う村人や馬、交わされるとりとめのない言葉――特別な筋立てのない一日の労働の情景が、季節の移ろいと土の匂いのなかに淡々と積み重ねられる。やがて日は傾き、村の竹藪から立ちのぼる夕餉の煙とともに、百姓たちは田甫を越えて家路につく。名もなき農民の暮らしそのものを主題とした、静かな写生の一編である。
冒頭部(原文より)
小春の日光は岡の畑一杯に射しかけて居る。岡は田と櫟林と鬼怒川の土手とで圍まれて他の一方は村から村へ通ふ街道へおりる。田は岡に添うて狹く連つて居る。田甫を越して竹藪交りの村の林が田に添うて延びて居る。竹藪の間から草家がぽつ/\と隱見する。箒草を中途から伐り放したやうに枝を擴げた欅の木がそこにもこゝにもすく/\と突つ立つて居る。田にはもう掛稻は稀で稻を掛けた竹の「オダ」がまだ外されずに立つて居る。鬼怒川の土手には篠が一杯に繁つて居るので近くの水は其蔭に隱れて見えぬ。のぼる白帆は篠の梢に半分だけ見えて然かも大きい。
「芋掘り」長塚節(青空文庫)
末尾部(原文より)
兼次は腰をくの字に屈めながら足に力を入れて左へ曳いて行く。村の竹藪から昇つた青い煙は畑の百姓を迎ひにでも出たやうに幾筋も棚引いて田甫から岡まで屆かうとして居る。其時黄昏の中を百姓は田甫から相前後して歸つて來る。何處ともなく鴫がきゝと鳴いて去つた。百姓の後姿を村の中へ押し込んでやがて夜の手は田甫から畑からさうして天地の間を掩うた。
「芋掘り」長塚節(青空文庫)
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