文鳥(夏目漱石)のあらすじ・登場人物
白い文鳥を飼いはじめた書斎
- 心理
- 文字数
- 10,569字
- 読了目安
- 約21分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
夏目漱石が1908年(明治41年)6月、朝日新聞に連載した小品。弟子の鈴木三重吉に勧められて文鳥を飼いはじめた「自分」の暮らしを、飾らない写生文でたどる。白く可憐な小鳥は、かつて心を寄せた女の面影を呼び起こし、書斎の日々に小さな楽しみをもたらす。『夢十夜』と同じ年に書かれ、淡い追憶と日常の観察が静かな調子で溶け合い、人と小さな生き物との距離のとり方が、さりげない出来事を通して描かれる。
あらすじ
早稲田の書斎で物憂く過ごしていた「自分」は、訪ねてきた弟子の鈴木三重吉に強く勧められ、文鳥を飼うことになる。三重吉が選んでくれた白く美しい文鳥を眺めるうち、自分はその可憐な姿に、昔ほのかに心を寄せた女の面影を重ねるようになる。はじめのうちは餌や水を替え、籠を日向に移してやり、囀りに耳を傾けて、ささやかな慈しみを楽しんでいた。だが原稿仕事に追われ、来客にまぎれるうちに、世話はしだいにおろそかになっていく。寒さの厳しいある朝、ふと気づくと、文鳥は止まり木から落ち、餌壺に顔を突っ込んだまま冷たくなっていた。餌をやり忘れた自分の無精が招いた死である。自分は悔恨と自己嫌悪に襲われ、下女を叱りつけて文鳥を庭に埋めさせる。手紙で死を知らせた三重吉からは、ただ「文鳥は可哀想な事を致しました」との、そっけない返事が届くばかりであった。
登場人物
- 自分 三重吉に勧められて文鳥を飼うが、無精から死なせてしまう作者
- 鈴木三重吉 文鳥を飼うよう勧める漱石の弟子。作中で籠や鳥の世話を指南する
- 文鳥 白く可憐な小鳥。自分がかつて慕った女の面影を重ねる
冒頭部(原文より)
十月早稲田に移る。伽藍のような書斎にただ一人、片づけた顔を頬杖で支えていると、三重吉が来て、鳥を御飼いなさいと云う。飼ってもいいと答えた。
「文鳥」夏目漱石(青空文庫)
末尾部(原文より)
午後三重吉から返事が来た。文鳥は可愛想な事を致しましたとあるばかりで家人が悪いとも残酷だともいっこう書いてなかった。
「文鳥」夏目漱石(青空文庫)
名文
十月早稲田に移る。伽藍のような書斎にただ一人、片づけた顔を頬杖で支えていると、三重吉が来て、鳥を御飼いなさいと云う。飼ってもいいと答えた。しかし念のためだから、何を飼うのかねと聞いたら、文鳥ですと云う返事であった。
夏目漱石『文鳥』(1908年)の書き出し。早稲田の新居で、門下の鈴木三重吉に勧められるまま文鳥を飼うことになる。気乗りしない受け答えのとぼけた味わいから、小さな命を見つめる静かな小品が始まる。
原文を読む
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