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坑夫(夏目漱石)のあらすじ・登場人物

坑内へ下りる青年の心の揺れ

  • 心理

夏目漱石 1908年(明治41年)1月 「朝日新聞」

文字数
141,690字
読了目安
約4時間43分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

家出した青年が銅山の坑夫になろうとする数日間を、ひたすら内面の揺れとして描いた異色の長編。ある若者が持ち込んだ実話をもとに書かれ、筋らしい筋も性格の一貫性もあえて排し、刻々と移ろう「心」だけを克明に追う。恋のもつれから東京を飛び出した「自分」が、ポン引きに誘われるまま鉱山へ向かい、暗い坑内へ下りていく。近代小説の約束事を意図的に裏切った実験作として、心理描写の可能性を追求した問題作である。

あらすじ

恋愛のもつれから嫌気がさして東京を家出した十九歳の「自分」は、行くあてもなく北へ北へと歩くうち、長蔵というポン引きに声をかけられ、銅山の坑夫にならないかと誘われる。半ば死ぬつもりで身を捨てる気になっていた自分は、投げやりに承知し、同じように集められた者たちと山道をたどって鉱山にたどり着く。飯場のむさ苦しさ、坑夫たちの荒んだ暮らしに怖じ気づきながらも、自分はいよいよ暗い坑内へと下りていく。梯子を伝い、迷路のような穴を進むうち、案内役の坑夫や、そこで出会った学のある坑夫・安さんとの言葉を通して、自分の心はめまぐるしく揺れ動く。結局、体格の検査ではねられて坑夫にはなれず、帳付けの仕事にありついた自分は、五か月ほど働いて東京へ帰る。物語は「これだけが自分の坑夫についての経験であり、みんな事実である」と、そっけなく閉じられる。

登場人物

冒頭部(原文より)

さっきから松原を通ってるんだが、松原と云うものは絵で見たよりもよっぽど長いもんだ。いつまで行っても松ばかり生えていていっこう要領を得ない。

「坑夫」夏目漱石(青空文庫)

末尾部(原文より)

自分はこの帳附を五箇月間無事に勤めた。そうして東京へ帰った。――自分が坑夫についての経験はこれだけである。そうしてみんな事実である。その証拠には小説になっていないんでも分る。

「坑夫」夏目漱石(青空文庫)

名文

涙がこぼれるほどだと譬に云うが、涙が出るくらいなら安心なものだ。涙が出るうちは笑う事も出来るにきまってる。

家出して坑夫になりかけた青年が、当時の追いつめられた心境を振り返る一節。泣けるうちはまだ余裕があるという、苦境の底を知る者の逆説。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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