オリンポスの果実(田中英光)のあらすじ・登場人物
ぼくが好きだったのでしょうか
- 青春
- 恋愛
- 文字数
- 75,304字
- 読了目安
- 約2時間31分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
1940年(昭和15年)、「文学界」に発表された田中英光の代表作。作者自身がボート選手として出場したロサンゼルス五輪の遠征を下敷きに、女子陸上選手・熊本秋子への淡い想いを、十年後の手紙として綴った青春小説である。大洋丸の甲板、練習と悪戯にあけくれる日本選手団、そして最後まで言い出せなかった一言。ほとんど何も起こらない純然たる片思いを、不器用で滑稽で誠実な筆で追いかけた。池谷信三郎賞を受け、時代を越えて読み継がれてきた一編。
あらすじ
「秋ちゃん。と呼ぶのも、もう可笑しいようになりました」——二十八になり、妻も子もある「ぼく」こと坂本重道は、ロサンゼルスで買った財布から、大洋丸で貰った杏の実を取り出して庭に捨て、この手記を書きはじめる。十年近く前、二十歳の彼はボート選手として五輪に向かう船に乗っていた。出発前夜に貰ったばかりの背広を失くして這いまわり、合宿の先輩たちに「大坂」と呼ばれてからかわれる、気の小さい大男だった。太平洋を渡る船上で、彼は女子陸上選手の熊本秋子に出会う。デッキでの遊び、練習、ふざけあい、そして胸のうちだけで膨らんでゆく想い。ろくろく話もできないまま、競技は終わり、帰国の日が来る。横浜で撮った写真を寄宿舎へ送り、手紙の返事をひたすら待った夏。相模の海の夕焼けを眺めながら祈るように家へ帰る日が続いたが、返事はとうとう来なかった。その後、左翼運動と検挙と転向を経て文学青年となった「ぼく」は、仲間たちの消息を風の便りに聞く。書きかけた原稿を破り捨てた夜もあった。
登場人物
- 坂本重道(ぼく) ロサンゼルス五輪に出場したボート選手。手記の書き手で、当時二十歳
- 熊本秋子(秋ちゃん) 同じ船で渡米した女子陸上選手。「ぼく」の想いの相手
- 森さん クルーのキャプテン整調。出発前にデレゲェション・バッジを落として騒ぎになる
- 中村さん 同じ遠征の選手。のちに秋子の消息を伝える
冒頭部(原文より)
一 秋ちゃん。 と呼ぶのも、もう可笑しいようになりました。熊本秋子さん。あなたも、たしか、三十に間近い筈だ。ぼくも同じく、二十八歳。すでに女房を貰い、子供も一人できた。あなたは、九州で、女学校の体操教師をしていると、近頃風の便りにききました。
「オリンポスの果実」田中英光(青空文庫)
末尾部(原文より)
東海さんは昨年、戦地で逢いました。補欠の佐藤は戦死したと聞きました。 戦地で、覚悟を決めた月光も明るい晩のこと、ふっと、あなたへ手紙を書きましたが、やはり返事は来ませんでした。 あなたは、いったい、ぼくが好きだったのでしょうか。
「オリンポスの果実」田中英光(青空文庫)
原文を読む
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