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オリンポスの果実(田中英光)のあらすじ・登場人物

ぼくが好きだったのでしょうか

  • 青春
  • 恋愛

田中英光 1940年(昭和15年)9月 「文学界」

文字数
75,304字
読了目安
約2時間31分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

1940年(昭和15年)、「文学界」に発表された田中英光の代表作。作者自身がボート選手として出場したロサンゼルス五輪の遠征を下敷きに、女子陸上選手・熊本秋子への淡い想いを、十年後の手紙として綴った青春小説である。大洋丸の甲板、練習と悪戯にあけくれる日本選手団、そして最後まで言い出せなかった一言。ほとんど何も起こらない純然たる片思いを、不器用で滑稽で誠実な筆で追いかけた。池谷信三郎賞を受け、時代を越えて読み継がれてきた一編。

あらすじ

「秋ちゃん。と呼ぶのも、もう可笑しいようになりました」——二十八になり、妻も子もある「ぼく」こと坂本重道は、ロサンゼルスで買った財布から、大洋丸で貰った杏の実を取り出して庭に捨て、この手記を書きはじめる。十年近く前、二十歳の彼はボート選手として五輪に向かう船に乗っていた。出発前夜に貰ったばかりの背広を失くして這いまわり、合宿の先輩たちに「大坂」と呼ばれてからかわれる、気の小さい大男だった。太平洋を渡る船上で、彼は女子陸上選手の熊本秋子に出会う。デッキでの遊び、練習、ふざけあい、そして胸のうちだけで膨らんでゆく想い。ろくろく話もできないまま、競技は終わり、帰国の日が来る。横浜で撮った写真を寄宿舎へ送り、手紙の返事をひたすら待った夏。相模の海の夕焼けを眺めながら祈るように家へ帰る日が続いたが、返事はとうとう来なかった。その後、左翼運動と検挙と転向を経て文学青年となった「ぼく」は、仲間たちの消息を風の便りに聞く。書きかけた原稿を破り捨てた夜もあった。

登場人物

冒頭部(原文より)

一  秋ちゃん。  と呼ぶのも、もう可笑しいようになりました。熊本秋子さん。あなたも、たしか、三十に間近い筈だ。ぼくも同じく、二十八歳。すでに女房を貰い、子供も一人できた。あなたは、九州で、女学校の体操教師をしていると、近頃風の便りにききました。

「オリンポスの果実」田中英光(青空文庫)

末尾部(原文より)

 東海さんは昨年、戦地で逢いました。補欠の佐藤は戦死したと聞きました。  戦地で、覚悟を決めた月光も明るい晩のこと、ふっと、あなたへ手紙を書きましたが、やはり返事は来ませんでした。  あなたは、いったい、ぼくが好きだったのでしょうか。

「オリンポスの果実」田中英光(青空文庫)

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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