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麦藁帽子(堀辰雄)のあらすじ・登場人物

麦藁帽子の焦げる匂いの夏

  • 恋愛
  • 青春

堀辰雄 1932年(昭和7年)9月 「日本國民」

文字数
15,508字
読了目安
約31分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

堀辰雄が1932年(昭和7年)9月号の「日本國民」に発表した短編。「私は十五だった。そしてお前は十三だった」と始まり、幼なじみの少女に「お前」と呼びかける一人称で、少年期の恋の記憶をたどる。都会育ちの一人息子で弱虫の「私」は、寄宿舎のある学校に入った夏、少女の兄から招かれて、C県の小さな海辺の村でひと夏を過ごすことになる。浜辺の光、牧場や麦畑、キャッチボールや釣り、赤いさくらんぼの飾りのついた麦藁帽子――断片的な情景を鮮やかに重ね、少年の自意識やはにかみ、母との微妙な関係までを、明るさと哀感のまじる繊細な文章で描き出す。

あらすじ

十五歳の「私」は、幼なじみの兄たちと野球の練習中に田圃へ落ち、井戸端で裸にされたとき、花環を手に駆けつけた十三歳の「お前」が急に一人前の娘に見えて真っ赤になる。数年後、寄宿舎のある学校に入った夏、田舎のない都会育ちの私に、C県の海辺のT村で避暑するお前の兄から招待が届いた。私は一週間の約束で出かけ、お前の家族と農家の離れで暮らしはじめる。お前の気に入る若者は兄たちだと見てとった私は、兄たちをまねてお前を遊びから締め出し、沖で泳ぎ、キャッチボールに興じた。釣りの餌をつけてくれるお前の麦藁帽子の縁が頬に触れても、匂うのはかすかに焦げる麦藁の匂いだけだった。テニスの嘘や、海水着を買いに自転車で町まで走った一日、母への「ボンボンオクレ」の電報――私は予定を過ぎても帰ろうとしない。迎えに来た母が、実はお前の家族と昔からの知り合いだったと知り、私はうろたえる。翌年の夏、再びT村を訪れると、お前はメランコリックな娘に変わり、私を避けるようになっていた。教会で、病気のため中学を退いて独学する村の呉服屋の息子と出会い、私はお前の心が彼に傾いているのを悟って、ひとり先に村を去る。秋に彼から恋を打ち明けるような手紙が届き、私は好んでお前を諦め、詩や小説に没頭し、医科をやめて文科に進みたいと母に訴えた。三度目の夏、すっかり色あせて見える村で、私は青年が血を吐くのを目にし、誰にも告げずに村を去った。やがて大地震が起こり、避難者の群れの中でお前たちの一家に出会った私は、郊外の天幕で一夜を過ごす。眠ったふりをして頬を埋めた髪からは、麦藁帽子の匂いがした。翌朝、母が行方知れずと聞かされた私は、母のためではなく、お前との思いがけない愛撫を思い出して泣いた。荷馬車で去るお前を、私は目をつぶったまま見送り続けた。

登場人物

冒頭部(原文より)

 私は十五だった。そしてお前は十三だった。  私はお前の兄たちと、苜宿の白い花の密生した原っぱで、ベエスボオルの練習をしていた。お前は、その小さな弟と一しょに、遠くの方で、私たちの練習を見ていた。その白い花を摘んでは、それで花環をつくりながら。飛球があがる。私は一所懸命に走る。球がグロオブに触る。足が滑る。私の体がもんどり打って、原っぱから、田圃の中へ墜落する。私はどぶ鼠になる。

「麦藁帽子」堀辰雄(青空文庫)

末尾部(原文より)

 私は村はずれまで、お前たちを見送りに行った。荷馬車はひどい埃りを上げた。それが私の目にはいりそうになった。私は目をつぶりながら、 「ああ、お前が私の方をふり向いているかどうか、誰か教えてくれないかなあ……」  と、口の中でつぶやいていた。しかし自分自身でそれを確かめることはなんだか恐ろしそうに、もうとっくにその埃りが消えてしまってからも、いつまでも、私は、そのまま目をつぶっていた。

「麦藁帽子」堀辰雄(青空文庫)

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