燃ゆる頬(堀辰雄)のあらすじ・登場人物
寄宿舎の少年の目覚めと憧れ
- 青春
- 文字数
- 8,012字
- 読了目安
- 約16分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
堀辰雄が1932年(昭和7年)、「文藝春秋」に発表した短編小説。中学から高等学校へ上がったばかりの「私」が、寄宿舎で過ごした少年期を、みずみずしくも繊細な感覚で回想する。上級生からの誘惑、美しく病弱な同級生・三枝への憧れ、そして目覚めゆく官能とためらい――思春期の「燃ゆる頬」を、堀が新心理主義的な鋭敏な筆致で描いた初期の代表作である。
あらすじ
十七になった「私」は、中学校から高等学校へ入ったばかりで、両親の手を離れて寄宿舎に入れられた。蜂の巣のような小部屋に十人余りがひしめくその環境は、「私」の少年期からの脱皮を、気味悪いまでに促していく。円盤投げの選手で下級生から偶像視されている上級生・魚住は、ある日「私」を植物実験室に呼び、顕微鏡を覗かせながら、少女のような弱々しい微笑を浮かべて熱い息を吹きかけてくる。やがて五月、「私」の部屋に三枝という同級生が移ってくる。痩せて、静脈の透いて見えるような美しい皮膚と、薔薇いろの頬をもった、上級生たちから「少年視」される美少年だった。「私」は彼の貧血性の美しさに憧れ、教科書の蔭からそのほっそりした頸を盗み見、闇のなかで眠る彼の寝顔をさまざまに夢みる。ある夜、「私」は寝室に、三枝の枕もとへマントを被って坐りこむ魚住の姿を見つける――。目覚めゆく官能とためらい、憧れと嫉妬にゆれる思春期の「燃ゆる頬」を、堀が新心理主義的な鋭敏な感覚でとらえた初期の代表作である。
登場人物
- 私 寄宿舎で少年期を過ごす十七歳の高校生。目覚めゆく官能とためらいのなかで、美少年・三枝に憧れる
- 三枝 「私」の部屋に移ってきた同級生。痩せて美しい皮膚と薔薇いろの頬をもち、上級生から「少年視」される美少年
- 魚住 円盤投げの選手で下級生に偶像視される上級生。「私」に誘惑めいた振る舞いを見せ、三枝にも近づく
冒頭部(原文より)
私は十七になった。そして中学校から高等学校へはいったばかりの時分であった。 私の両親は、私が彼等の許であんまり神経質に育つことを恐れて、私をそこの寄宿舎に入れた。そういう環境の変化は、私の性格にいちじるしい影響を与えずにはおかなかった。それによって、私の少年時からの脱皮は、気味悪いまでに促されつつあった。
「燃ゆる頬」堀辰雄(青空文庫)
末尾部(原文より)
或る朝、私はふとベッドから起き上って、こわごわ一人で、窓際まで歩いて行ってみたい気になった。それほどそれは気持のいい朝だった。私はそのとき自分の病室の窓から、向うのヴェランダに、その少年が猿股もはかずに素っ裸になって日光浴をしているのを見つけた。彼は少し前屈みになりながら、自分の体の或る部分をじっと見入っていた。彼は誰にも見られていないと信じているらしかった。私の心臓ははげしく打った。そしてそれをもっとよく見ようとして、近眼の私が目を細くして見ると、彼の真黒な脊なかにも、三枝のと同じような特有な突起のあるらしいのが、私の眼に入った。 私は不意に目まいを感じながら、やっとのことでベッドまで帰り、そしてその上へ打つ伏せになった。 少年は数日後、彼が私に与えた大きな打撃については少しも気がつかずに、退院した。
「燃ゆる頬」堀辰雄(青空文庫)
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