アプリで読む

無料・登録不要

酒と歌(若山牧水)のあらすじ・登場人物

歌と酒に生きた半生の告白

若山牧水 1927年(昭和2年)

文字数
699字
読了目安
約1分
表記
旧字旧仮名
種別
随筆

この作品について

歌人・若山牧水の随筆。昭和二年(1927年)、四十二歳の厄年を迎えた牧水が、これまでの半生をふり返り、自分にとって「歌」と「酒」がいかに切り離せぬものであったかを率直に語った小品。無茶な飲みかたを悔いつつも、酒への尽きぬ愛着を隠さず、これからは歌にも酒にもいっそう本気で向き合いたいと誓う。旅と酒を愛した牧水その人の心境が、短いなかに凝縮された一篇である。

あらすじ

若山牧水は、これまで自分のしてきたことで多少とも人目につくのは、やはり歌を作ってきたことと、もう一つ、出鱈目に酒を飲んできたことだけだと述懐する。歌はといえば、意気込んで作ってきたというより、作れるから作った、作らせるから作ったという気持ちで、全力を挙げてきたとは言い難く、寝食を忘れて苦心する人を見聞きするたびにうしろめたさを覚えてきた。酒もまた、世にいう大厄の四十二歳までよく体が保ったと自ら驚くほど無茶な飲みかたを重ねてきたが、この頃はさすがにその飲みぶりが嫌になってきた——酒そのものへの愛着は寸毫も変わらないのに、湯水のように、あるいは薬代わりに飲む自分が、酒の徳をけがしているように思えてならないのだという。そこで牧水は、無事にこの年まで生きてきた感謝として、昭和二年からはもっと歌に熱心になり、酒もまた本来の酒として飲もうと心に誓う。二十年来の親友たる酒は、きっと本気になって自分の仕事を助けてくれるにちがいない、と。

冒頭部(原文より)

 今まで自分のして來たことで多少とも眼だつものは矢張り歌を作つて來た事だけの樣である。いま一つ、出鱈目に酒を飮んで來た事。  歌を作つて來たとはいふものゝ、いつか知ら作つて來たとでもいふべきで、どうも作る氣になつて作つて來たといふ氣がしない。全力を擧げて作つて來たといふ氣がしない。たゞ、作れるから作つた、作らすから作つたといふ風の氣持である。寢食を忘れてゐる樣な苦心ぶりを見聞きするごとにいつもうしろめたい氣がしたものである。

「酒と歌」若山牧水(青空文庫)

末尾部(原文より)

 そこで無事に四十二歳まで生きて來た感謝としてわたしはこの昭和二年からもつと歌に對して熱心になりたいと思ふ。作ること、讀むこと、共に懸命にならうと思ふ。一身を捧じて進んで行けばまだわたしの世界は極く新鮮で、また、幽邃である樣に思はれる。それと共に酒をも本來の酒として飮むことに心がけようと思ふ。さうすればこの廿年來の親友は必ず本氣になつてわたしのこの懸命の爲事を助けてくれるに相違ない。

「酒と歌」若山牧水(青空文庫)

名文

今まで自分のして來たことで多少とも眼だつものは矢張り歌を作つて來た事だけの樣である。いま一つ、出鱈目に酒を飮んで來た事。

四十二歳の厄年に半生をふり返った随筆『酒と歌』の書き出し。歌と酒を並べて自分の生涯とする、酒の歌人・牧水らしい自己紹介である。

さうすればこの廿年來の親友は必ず本氣になつてわたしのこの懸命の爲事を助けてくれるに相違ない。

同じ随筆の結び。酒を「廿年來の親友」と呼び、歌にも酒にも本気で向き合い直そうと誓う、牧水の心境がよく表れている。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

青空文庫の図書カード

同じ作家の作品