アプリで読む

無料・登録不要

桜島(梅崎春生)のあらすじ・登場人物

そして貴方は、そこで死ぬのね

  • 社会
  • 心理

梅崎春生 1946年(昭和21年)9月 「素直」

文字数
36,660字
読了目安
約1時間13分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 鹿児島県

この作品について

1946年(昭和21年)、「素直」創刊号に発表された梅崎春生の出世作。自身の海軍体験をもとに、敗戦直前の日々を描いた第一次戦後派の代表作である。坊津の基地で暗号員を務めていた村上兵曹に、桜島への転勤命令が下る。そこは本土決戦の最前線であり、行けば死ぬことが分かっている場所だった。片耳のない妓に「そして貴方は、そこで死ぬのね」と問われ、桜島では狂気じみた吉良兵曹長と対峙しながら、来るはずの日を待つ。死を目前にした人間の、緊張と倦怠と滑稽の入り混じった時間を、抑制の利いた文章で刻みつけた一編。

あらすじ

七月初め、坊津の峠で基地通信にあたっていた暗号員の村上兵曹に、桜島へ転勤せよという電報が届く。その夜アルコールを水で割って痛飲し、崖を滑り落ちて瞼を切った。翌朝、生涯二度と見ることのない坊津の風景は、おそろしいほど新鮮に見えた。途中の町の妓楼で、右の耳のない妓と一夜を過ごす。妓は「あそこはいい処よ、一年中、果物がなっている」と言い、それから「そして貴方は、そこで死ぬのね」「どうやって死ぬの」と繰り返し問うた。桜島の電波探知基地に着いた村上を待っていたのは、いつ来るとも知れぬ敵の上陸を待ちながら、穴を掘り、敬礼の仕方を叱られ、酒を飲み、疑心に苛まれる日々である。部下の兵たちは死を目前にして麻痺し、分隊長の吉良兵曹長は軍刀を握りしめ、卑怯未練な奴は片っぱしから斬ると言い放つ。「敵が上陸したら、勝つと思うか」と詰め寄られた村上が、勝つか負けるかはその時にならねばわからないと答えた、まさにその時——壕の入口から兵が入ってきて、昼のラジオは終戦の詔勅であると告げる。

登場人物

冒頭部(原文より)

 七月初、坊津にいた。往昔、遣唐使が船出をしたところである。その小さな美しい港を見下す峠で、基地隊の基地通信に当っていた。私は、暗号員であった。毎日、崖を滑り降りて魚釣りに行ったり、山に楊梅を取りに行ったり、朝夕峠を通る坊津郵便局の女事務員と仲良くなったり、よそめにはのんびりと日を過した。

「桜島」梅崎春生(青空文庫)

末尾部(原文より)

 壕を出ると、夕焼が明るく海に映っていた。道は色褪せかけた黄昏を貫いていた。吉良兵曹長が先に立った。崖の上に、落日に染められた桜島岳があった。私が歩くに従って、樹々に見え隠れした、赤と青との濃淡に染められた山肌は、天上の美しさであった。石塊道を、吉良兵曹長に遅れまいと急ぎながら、突然瞼を焼くような熱い涙が、私の眼から流れ出た。拭いても拭いても、それはとめどなくしたたり落ちた。

「桜島」梅崎春生(青空文庫)

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

青空文庫の図書カード

同じ作家の作品

近い作品